第22話

文字数 1,476文字

 アリスは白い息を吐きながら驚いた。
「今宵も白い月の夜。収穫には持って来いだ」
 モートは「行ってくる」とアリスとオーゼムに言った。
 ウエイターが目の前のテーブルにお替りのコーヒーを置いたので、アリスは視線をテーブルに戻した。ウエイターの男も酷く寒そうだった。
 再びアリスが隣の席に座っていたモートの方に向くと、モートの姿は影も形も無かった。
 すぐさまアリスは周囲を見回した。
 オーゼムは十字を胸で切って、お祈りをしながらブツブツと呟いていた。
「私の研究は正しいのかどうかは、今はわかりません。ですが、これだけは言えます。この研究は悪魔の研究です」

 アリスにはそう聞こえた。
 シンシンと雪の降る窓の外を覗くと、雪は灰色と化し夜空を何か銀色と漆黒を纏ったものがあっという間に過ぎていった。

 wolf and sheep3

「な! ……なんだ! てめえは!?」
「壁から……一体?」
「撃て!!」
 灰色の雪が舞うイーストタウンの裏路地で、厚着で寒さをしのいでいた男5人が叫んだ。白い粉の入った袋と女二人を金貨5枚で交換しようとしていたのだ。壁を通り抜けて来たモートの姿を見て男たちは酷く動揺したようだ。
 モートは銀の大鎌を持っているので、一人の男がすぐさま拳銃を発砲した。モートの身体を貫通した弾丸はこの裏路地に林立する廃ビルの壁に穴を空けた。
 女二人のけたたましい悲鳴の後に、5人の首が一斉に飛ぶ。
 おびただしい血液が宙に舞い。雪が敷き詰められた地面には5個の首が転がった。
 モートは次の収穫へと街路を走り出した。
 
 次にモートが向かったところは、ウエストタウンの一角で建物に火を放とうとしている不審な男だった。大方、怠け者が保険金目当てで自分の家に放火をしているのだろう。とモートは考えた。無論、黒い魂なので、道すがら首を狩った。
 そのまま、モートは今度はウエストタウンへと向かい。赤煉瓦の倉庫へと足を踏み入れた。倉庫の入り口を通り抜けると、大規模な麻薬の取引の最中だった。モートはそのど真ん中に飛び込んだ。
 一斉にトンプソンマシンガンがモートに向かって乱射された。だが、嵐のような弾丸の雨はモートの身体を全て通り抜けていく。そして、モートは一人、また一人と首を狩る。
 走行中の車同士の撃ち合いが見えて来た。
 どうやら、カーチェイスだろう。
「なん?! 針葉樹に人が乗っている?!」
「寝ぼけてんのかお前ー!」
「そうじゃないって! 見ろよ!」
「うわ?!」
 モートは針葉樹から走行中の普通自動車へと飛翔した。
 後方のパトカーの群れが急停車した。
 普通自動車からは四人の首が窓の外へ全て飛び。そのまま鉄骨コンクリートの建造物に衝突したからだ。
 
「七つの大罪……今日の収穫は凄いな……」
 モートは再び針葉樹に乗り一人ごちた。

 wolf and sheep4
 
 次の日の早朝。
 
 アリスは屋敷で、焼き立てのクロワッサンと淹れたてのエスプレッソと、いつもの朝食を取りながら新聞を読んでいた。昨日、モートを行かせてから何が起きたのかが、昨日の夜から気になって仕方がなかったのだ。
 オーゼムはその後、急に無口になり何も言ってくれなかった。
 ホワイト・シティのサン新聞を広げると、そこには昨日の夜に起きた事件が載っていた。その事件は大量の首のない遺体が、街の至る所で発見されたというものだった。
 街全体を震撼させるその事件は、全ての遺体から首だけが綺麗になくなっていたと特筆され。警察は何らかの集団による猟奇的な犯行と断定した。何故なら遺体の距離や間隔が、どれも遠すぎていたのだ。
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登場人物紹介

モート・A・クリストファー

アリス・ムーア

シンクレア・クリアフィールド

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