第60話 Wrath (憤怒)
文字数 1,533文字
アリスは聖パッセンジャービジョン大学の講堂内で、数人の子供たちと身を隠していた。
辺りには互い互いの呼吸音しかしない。
それほど密着した状態でのシンシンと大雪の降る静かすぎる漆黒の夜だった。
アリスは明かりのない講堂内のいつもモートと一緒に座っていた席をしばらく見つめた。
シンと静まり返った広大な講堂で、モートが助けに来るまで猿の軍勢を警戒しているつもりだったが。
シンクレアはここにはいない。
どこかで無事なのを祈りたいとアリスは思ったが、天使のオーゼムはジョンの屋敷だった。
本当に世界の終末は訪れてしまうのでしょうか?
このままでは猿によっても、世界。いや、ホワイト・シティだけは確実に滅びてしまうのではないでしょうか?
そこまで考えたアリスの耳に、ガシャンと窓が数枚割れる音が北のクリフタウン側から聞こえて来た。
震える肩を叱咤してアリスは機転を回した。子供たちだけを大学の窓の外の芝生の上に逃がすことにした。だが、こんな夜には、外はこれからダイヤモンドダストが襲ってくるかも知れなかった……。
「ねえ、綺麗なお姉さん。あのおっきな髑髏は何?」
小さい子供の一人がアリスに小声で不思議そうに言った。
アリスが雪と氷の窓の外へと子供たちを慎重に降ろしている最中だった。
ふと、アリスは空の上に浮かぶ不気味な髑髏を見上げた。
それは、白い月の夜空に漂うようにゆらゆらと浮かんでいた。
何故か、その髑髏は人間の死ではない何ものかの死を欲しているかのようにアリスには思えた。不思議とモートとも関係しているかのようにも思えて、子供たちについこう言ってしまった。
「きっと、味方よ。何故か私の恋人と関係しているみたですね。ほら、あの髑髏が見ているのは……」
子供たちは、皆夜空を見上げて、南の方を指さした。
「あ! ヒルズタウンの方を見ている!」
空中に浮かぶ巨大な髑髏は、しっかりとそれが髑髏だとアリスには見えた。当然、気付いた子供たちもそうだった。その髑髏は窪みとなっている目の部分がヒルズタウンの方を向いている。そして、徐々にモートのいるはずのジョンの屋敷があるヒルズタウンの方へと近づいていった。
髑髏は何かを満たそうとしているとアリスにははっきりとわかった。
「なんだか……凄く……怖いけど……」
「ええ、不思議ね……」
「これからあの猿が全部消えてくれそう……」
子供たちの中から白い息を吐きながら次々と声が上った。
「そう……ね……きっと、ここへ……すぐにモートが来てくれるわ……」
アリスも真っ白な息を吐いて、この銀世界の中の大学で子供たちと共にしばらく空を見上げていた。
Wrath 2
「モート君! アリスさんとシンクレアさんが危機的状況です! 早く!」
「わかった……」
壁の向こうからのオーゼムの切迫した声を聞き、モートは鮮血で真っ赤に染まった銀の大鎌を構え直し、ヒュッと真横に右手を振った。
瞬間。
ドシンと倒れだした4匹の巨大な蛇の首なしの胴体は、すでにその息を止めていた。
モートが向き直ると、ジョンはすぐに血色が良かった顔を鬱にして、身を隠していたテーブルの下からヨロヨロとレビアタンの書をかざした。
再度巨大な蛇を召喚しようとする。
本が強烈に振動すると、青い炎の暖炉も共鳴するかのように激しく振動した。大部屋の天井から埃が降って来た。まるで、無理矢理蛇を召喚しようとしているかのようだった。
モートが銀の大鎌を構えた。すると、同時にそれを見ていたヘレンが思い切った行動をし、ジョンの左肩目掛けて体当たりをした。
ヘレンはジョンからレビアタンの書を奪い取ってしまい。女中たちを跳ね除けてモートの元へと駆け出してきたので、モートは一瞬驚いた。
辺りには互い互いの呼吸音しかしない。
それほど密着した状態でのシンシンと大雪の降る静かすぎる漆黒の夜だった。
アリスは明かりのない講堂内のいつもモートと一緒に座っていた席をしばらく見つめた。
シンと静まり返った広大な講堂で、モートが助けに来るまで猿の軍勢を警戒しているつもりだったが。
シンクレアはここにはいない。
どこかで無事なのを祈りたいとアリスは思ったが、天使のオーゼムはジョンの屋敷だった。
本当に世界の終末は訪れてしまうのでしょうか?
このままでは猿によっても、世界。いや、ホワイト・シティだけは確実に滅びてしまうのではないでしょうか?
そこまで考えたアリスの耳に、ガシャンと窓が数枚割れる音が北のクリフタウン側から聞こえて来た。
震える肩を叱咤してアリスは機転を回した。子供たちだけを大学の窓の外の芝生の上に逃がすことにした。だが、こんな夜には、外はこれからダイヤモンドダストが襲ってくるかも知れなかった……。
「ねえ、綺麗なお姉さん。あのおっきな髑髏は何?」
小さい子供の一人がアリスに小声で不思議そうに言った。
アリスが雪と氷の窓の外へと子供たちを慎重に降ろしている最中だった。
ふと、アリスは空の上に浮かぶ不気味な髑髏を見上げた。
それは、白い月の夜空に漂うようにゆらゆらと浮かんでいた。
何故か、その髑髏は人間の死ではない何ものかの死を欲しているかのようにアリスには思えた。不思議とモートとも関係しているかのようにも思えて、子供たちについこう言ってしまった。
「きっと、味方よ。何故か私の恋人と関係しているみたですね。ほら、あの髑髏が見ているのは……」
子供たちは、皆夜空を見上げて、南の方を指さした。
「あ! ヒルズタウンの方を見ている!」
空中に浮かぶ巨大な髑髏は、しっかりとそれが髑髏だとアリスには見えた。当然、気付いた子供たちもそうだった。その髑髏は窪みとなっている目の部分がヒルズタウンの方を向いている。そして、徐々にモートのいるはずのジョンの屋敷があるヒルズタウンの方へと近づいていった。
髑髏は何かを満たそうとしているとアリスにははっきりとわかった。
「なんだか……凄く……怖いけど……」
「ええ、不思議ね……」
「これからあの猿が全部消えてくれそう……」
子供たちの中から白い息を吐きながら次々と声が上った。
「そう……ね……きっと、ここへ……すぐにモートが来てくれるわ……」
アリスも真っ白な息を吐いて、この銀世界の中の大学で子供たちと共にしばらく空を見上げていた。
Wrath 2
「モート君! アリスさんとシンクレアさんが危機的状況です! 早く!」
「わかった……」
壁の向こうからのオーゼムの切迫した声を聞き、モートは鮮血で真っ赤に染まった銀の大鎌を構え直し、ヒュッと真横に右手を振った。
瞬間。
ドシンと倒れだした4匹の巨大な蛇の首なしの胴体は、すでにその息を止めていた。
モートが向き直ると、ジョンはすぐに血色が良かった顔を鬱にして、身を隠していたテーブルの下からヨロヨロとレビアタンの書をかざした。
再度巨大な蛇を召喚しようとする。
本が強烈に振動すると、青い炎の暖炉も共鳴するかのように激しく振動した。大部屋の天井から埃が降って来た。まるで、無理矢理蛇を召喚しようとしているかのようだった。
モートが銀の大鎌を構えた。すると、同時にそれを見ていたヘレンが思い切った行動をし、ジョンの左肩目掛けて体当たりをした。
ヘレンはジョンからレビアタンの書を奪い取ってしまい。女中たちを跳ね除けてモートの元へと駆け出してきたので、モートは一瞬驚いた。