第32話

文字数 1,113文字

 モートは大学に通いながらロイヤル・スター・ブレックファーストのパン屋で四日間も滞在していた。寝泊まりしているミリーの護衛と共に時にはパン屋を手伝い。雪掻きをし、何故かモートの居場所を知ったオーゼムがパン屋へと来るころには、度々来るお客に挨拶をされる仲になっていた。
「ほう、ほう、素晴らしい良識ですねー」
「オーゼム? よくここがわかったね?」
 大きな雪だるまが飾ってあるパン屋の入り付近で、いつまでもオーゼムは感心していた。外套の雪を落とし傘を仕舞うと微笑んだ。昼の14時だった。丁度、お客が少ない時間帯だ。ホワイト・シティは今日も相変わらず大雪だった。
「オーゼム? ここが何故わかったんだ?」
 モートは昼は子供たちとパン粉を練ったりしていたので、夜は勉強だった。当然、狩りには行っていない。
「いやいや、こちらからは……モート君の魂が見えるので……すぐですよ……」
 モートはあえて自分の魂の色のことをオーゼムに聞かなかった。聞く必要がないと考えた。
「モート君は大学へも行っているようで、なによりですね。はい、真面目です。さて……ミリーは自分がロイヤル・スター・ブレックファーストの窃盗団でのリーダー的存在なのを、お家には黙っていますね。なので、モート君の考えを読むと、このパン屋で寝泊まりをしている。だから、ミリーのお家ではひどく心配されています。でも……モート君の考えは正しいですね。ミリーの家が危険にさらされてしまうよりは、このロイヤル・スター・ブレックファーストのアジトの方が護衛をしやすい。と、いったところでしょうか」
 そこで、オーゼムは急に不審な顔を近づけた。店番をしているモートに小声で囁いた。
「もうそろそろ、あなたの狩りの時間です。くれぐれもお店を壊したり狩りの対象を間違えないように……」
 オーゼムは胸の上で十字を切った。
 狭いパン屋に数人の客が来店してきた。
 黒い魂だった。
 青い魂の客の一人がクリームパンとフランスパンをレジに持ってきた。
 モートは数字をレジで打ってから少し右手を振った。
 瞬間、間隔の空いた男たちの首が全て飛ぶ。
 首なしの立ったままの五人の死体に、お客が鋭い悲鳴を上げるが、オーゼムがすぐに死体を光の奥にしまうと、この狭い店内には、静寂が支配した。
「オーゼム? 遺体から居場所を知りたかったのだけど……」
 モートは苦笑いする。
「大丈夫ですよ。モート君の調べているグリーンピース・アンド・スコーンという名のパン屋はクリフタウンにありましたよ。モート君は、何故私がそれを知っているのか? といった顔ですね。簡単ですよ。対抗組織はそこしかない。いや、黒い魂が大勢ある場所がそこしかないんですよ」
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登場人物紹介

モート・A・クリストファー

アリス・ムーア

シンクレア・クリアフィールド

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