第28話

文字数 1,066文字

 そこまで考えたモートだったが、オーゼムの家までイーストタウンの建物を通り抜けながら飛び跳ねたりと急いで進んだ。人も街もモートは通り抜けられる。前を歩く行き交う人々も驚いて急いでいるモートの後ろ姿に振り返った。
 何故、切羽詰っているかというと、オーゼムの家と思わしき場所へ黒い魂が三人も乱入したからだ。
 オーゼムの家にモートは辿り着いた。
 針葉樹で囲まれた石造りのその家は、二階がだいぶ騒がしくなっていた。モートはすぐに十字架が飾られた入り口の扉を通り抜けた。二階へとキッチンからシチューの匂いがする廊下を走り、土足で荒らされた白いカーペットの床を蹴って階段を登った。
 二階はドアが四つだが、その一番奥にオーゼムの魂が見える。ドアを開けようとしたが、鍵がかかっていたので、モートは強引に通り抜けた。
「キャー!!」
 ミリーの悲鳴がする。
 悪漢の一人がナイフをミリーとオーゼムに向かって振りかざしていた。
 モートは瞬く間に三人のナイフや銃を持った悪漢の首を狩った。
 悪漢の首がごろりと血を巻き上げて床に転がり、悪漢の一人の首が窓を突き破って吹っ飛んだ。鮮血が桃色のカーペットにドクドクと大きな染みを作る。
「モート君。お蔭で助かったよ。けれどもねー……天はどう思うのでしょう?」
 オーゼムは胸の上で十字を切って小声で言った。
 「ああ。それでも、ぼくは狩るしかないんだよ……」
 モートはそう平静に言葉を漏らすと、恐怖で顔を歪ませ震えて立っているミリーの前で、ミリーの手を優しく握り、その手を左頬に当てた。勿論、モートの善意だった。
「もう、大丈夫だ……」
「モート……」
 それ以上。ミリーは何も言わずに泣き崩れた。
 モートは困って、オーゼムの方を向いた。
 オーゼムは未だに眉間に皺をよせ俯いて考え込んでいたが、すぐに顔を上げ笑みを含んだ顔をモートに見せた。
「いやはや、モート君はいつも私の期待通りで、結構。結構。大いに……いや……期待以上か……賭けはまた私の勝ちだね」

「オーゼム?」

 モートは何の賭けだかわからなかったので、オーゼムに目で問うことにした。
「ああ、子供の頃からの私の趣味でね。実はミリーは、あ、でも。言っていいのかな? とある事件に関わっていて……灰色の魂だったんだよ。でも、今は青い色の魂だね。そう、私は青い色の魂になる。と、天界の兄と賭けていました。兄は黒い魂なると賭けましたが……何を言っているのかわからないといった顔ですね。でも、説明しようとしても……ミリー……」
 そこで、オーゼムはミリーの頬を優しく撫でて説明を促した。
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登場人物紹介

モート・A・クリストファー

アリス・ムーア

シンクレア・クリアフィールド

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