第93話
文字数 1,115文字
――――
「やあ、アリス。もう大丈夫だよ」
アリスはその抑揚のない声で気を取り戻した。
目を開けて辺りを見回すと、目覚めた場所は、広大なサロンだった。サロンの壁面には13枚の美しい女性の絵画。30を超える高級な東洋の壺。みずみずしい花が飾られた花瓶が飾ってあった。
抑揚のない声の主は、背が高く流れるような銀髪のモートだった。
どうやら、アリスはサロンの端の簡易ソファに横になっていたようだ。モートの傍にはオーゼムが佇んでいた。
オーゼムはオールバックの黒色の髪で長身だった。
「一体、なんなのでしょう? この現象は? けれども、モート君が元凶のゾンビを全て狩ると空から血の雨は降らなくなったようです。まあ、また降って来るでしょうけどね」
「ゾンビ?」
「そうだと思います。死んだ人が動いていましたからねえ……あ、そうそう。アリスさんの手首の傷は、どうやら鞭打ちのような聖痕で間違えないようですね」
「オーゼムさん。聖痕って一体なんなのです?」
アリスは底知れぬ不安からオーゼムに少し詰問気味に言ってしまった。
オーゼムは気にする風もなく。オールバックを整えながら、このサロンの壁画などを見回しながら。
「今のところまだわかりません……恐らくは……あ! この女性の絵だけ他の絵よりも高価そうですね!」
アリスの肩にモートが優しく手を置いて抑揚のない声で言った。
「アリス。何も心配しなくていいだよ」
「……ええ、わかりました。ちょっとわからないところが多すぎますけど。モートがそう言ってくれるなら……」
オーゼムはアリスに向かって真顔で急にしんみりと言いだした。
パチリっとこのサロンの暖炉が弾けた。
「これは聖痕現象ですよ。新約聖書のガラテヤの手紙で聖パウロが聖痕をイエスの焼印と言われています。恐らくこれから何か大きなことが起きる前触れでしょうね。モート君。今日は失礼して私はもう帰ります。いやはや、かなり疲れましたねえ」
「ああ。ぼくは今夜は狩りをしてくるよ」
「そういえば、アリスさん。ここまでモート君があなたを運んでくれたのですよ。死人を狩り終えてから早々にあなたを探してね。聖パッセンジャービジョン大学中をくまなく探してから。あなたは石階段の傍のベンチで横になっているのを発見しました。ご友人のシンクレアさんが介抱してくれていたんだそうです」
それを聞いてアリスはサロンの暖かさも相まって頬と目頭が熱くなった。
「本当にありがとう。モート。もうなんともないです。私も今日は帰りますね」
「それは良かったよアリス……お休み」
モートは抑揚のない声で言うと。
「これから忙しくなるな……」
暖房の行き届いたサロンで、モートは独り言を呟いていた。
「やあ、アリス。もう大丈夫だよ」
アリスはその抑揚のない声で気を取り戻した。
目を開けて辺りを見回すと、目覚めた場所は、広大なサロンだった。サロンの壁面には13枚の美しい女性の絵画。30を超える高級な東洋の壺。みずみずしい花が飾られた花瓶が飾ってあった。
抑揚のない声の主は、背が高く流れるような銀髪のモートだった。
どうやら、アリスはサロンの端の簡易ソファに横になっていたようだ。モートの傍にはオーゼムが佇んでいた。
オーゼムはオールバックの黒色の髪で長身だった。
「一体、なんなのでしょう? この現象は? けれども、モート君が元凶のゾンビを全て狩ると空から血の雨は降らなくなったようです。まあ、また降って来るでしょうけどね」
「ゾンビ?」
「そうだと思います。死んだ人が動いていましたからねえ……あ、そうそう。アリスさんの手首の傷は、どうやら鞭打ちのような聖痕で間違えないようですね」
「オーゼムさん。聖痕って一体なんなのです?」
アリスは底知れぬ不安からオーゼムに少し詰問気味に言ってしまった。
オーゼムは気にする風もなく。オールバックを整えながら、このサロンの壁画などを見回しながら。
「今のところまだわかりません……恐らくは……あ! この女性の絵だけ他の絵よりも高価そうですね!」
アリスの肩にモートが優しく手を置いて抑揚のない声で言った。
「アリス。何も心配しなくていいだよ」
「……ええ、わかりました。ちょっとわからないところが多すぎますけど。モートがそう言ってくれるなら……」
オーゼムはアリスに向かって真顔で急にしんみりと言いだした。
パチリっとこのサロンの暖炉が弾けた。
「これは聖痕現象ですよ。新約聖書のガラテヤの手紙で聖パウロが聖痕をイエスの焼印と言われています。恐らくこれから何か大きなことが起きる前触れでしょうね。モート君。今日は失礼して私はもう帰ります。いやはや、かなり疲れましたねえ」
「ああ。ぼくは今夜は狩りをしてくるよ」
「そういえば、アリスさん。ここまでモート君があなたを運んでくれたのですよ。死人を狩り終えてから早々にあなたを探してね。聖パッセンジャービジョン大学中をくまなく探してから。あなたは石階段の傍のベンチで横になっているのを発見しました。ご友人のシンクレアさんが介抱してくれていたんだそうです」
それを聞いてアリスはサロンの暖かさも相まって頬と目頭が熱くなった。
「本当にありがとう。モート。もうなんともないです。私も今日は帰りますね」
「それは良かったよアリス……お休み」
モートは抑揚のない声で言うと。
「これから忙しくなるな……」
暖房の行き届いたサロンで、モートは独り言を呟いていた。