第53話
文字数 1,351文字
Envy 3
痩せこけたメイド長によって、鉛のように重い頭と身体を乗せた車椅子はヘレンを乗せて大部屋に入った。ジョン・ムーアとの会話の途中、急にヘレンは激しい眩暈を感じて倒れ込んだのだ。そんな中で、ジョンは確かにヘレンの顔を見つめて微笑んでいた。
能面のような顔のメイド長が車椅子を押して、豪奢な大部屋の中央までヘレンを移動させると、几帳面にお辞儀をして部屋から出て行った。
今でも霞がかった頭で、ヘレンは考えていた。
けれども、原因を考えるよりも先に、腕一本動かすこともできないので、心細くてヘレンはひたすらモートを心の中で呼んだ。
時間の感覚のわからない時が幾らか立った頃に、身体も動かない。話し相手もいない。ついに、とてつもない心細さで泣きたくなって、ヘレンは心の中で大声でモートを呼んでいた。
いつの間にか後ろに誰かが立っている感覚をヘレンは覚えた。
「そんなに大声をださないでください。もう、あなたは大丈夫ですから……」
若い男の声だった。
それもよく聞く声……。
オーゼムだった。
だが、ヘレンは安堵の気持ちと共に不思議がった。何故なら今まで心の中で大声でモートを呼んでいたからだ。
後ろの方からオーゼムの柔らかい祈りの声が上がった。
すると、ヘレンの腕が少しずつ動いた。
身体が動かせるんだという安堵の息を吐きながら、ヘレンは頭の中も元通りにスッキリとしてきた。
ヘレンはとても嬉しさを感じたが、同時にとてつもない不安を感じ、今の状況を知りたくて、この大部屋をぐるりと恐る恐る見てみることにした。
やはり、多種多様な絶滅危惧種の剥製が壁の至る所に飾ってあったが、パイソン、二ホンカワウソ、マミジロクイナのように、中には絶滅種も混ざっていた。緑を基調とした内装だった。高価そうな硬い絨毯が敷かれ、剥製以外は、在り来たりだった。今まで気がつかなかったが、バラの香りがする部屋だった。
どうやら、女性の部屋のようだ。
天蓋付きのベットがどこか女性らしさを際立たせていた。
「それにしても、凄く豪奢な部屋ですね。私の家よりも大きいのでは?」
オーゼムは呑気な声を発し、部屋を隅々まで調べそうな顔になっていた。
ヘレンはさっきのメイド長がまた来てしまうのではと気が気でなかったので、たまらなくなってオーゼムに告げた。
「オーゼムさん。ジョン・ムーアは一体何者なんですか? あなたなら何かがわかるはずだと思います。ジョンは私をどうしようとしたのでしょう? この部屋に押し込んで一体……?」
オーゼムは突然に深刻な顔付きになり、ヘレンに顔を向けた。
「今からお話する言葉は、決して、モート君には言わないでくださいね……約束できますか?」
ヘレンは非常に不安だったせいで、素直に頷いた。
「今から、10年前にジョン・ムーアという人物がいました。その男は恋人を失くし、失意の念を何年も持ち続けて病気になったのです。そうです。心の病です。それは……絶滅・死滅・道連れ・終焉というものが、彼にとっては興味が持てる。唯一の生き甲斐のようなものになったのです」
ヘレンは一体何を言っているのかと眉を擦った。けれども、少し冷静になればそれらが連想させるのは、全て死だ。身震いして、オーゼムの話に聞き入ると同時に疑問に思った。
痩せこけたメイド長によって、鉛のように重い頭と身体を乗せた車椅子はヘレンを乗せて大部屋に入った。ジョン・ムーアとの会話の途中、急にヘレンは激しい眩暈を感じて倒れ込んだのだ。そんな中で、ジョンは確かにヘレンの顔を見つめて微笑んでいた。
能面のような顔のメイド長が車椅子を押して、豪奢な大部屋の中央までヘレンを移動させると、几帳面にお辞儀をして部屋から出て行った。
今でも霞がかった頭で、ヘレンは考えていた。
けれども、原因を考えるよりも先に、腕一本動かすこともできないので、心細くてヘレンはひたすらモートを心の中で呼んだ。
時間の感覚のわからない時が幾らか立った頃に、身体も動かない。話し相手もいない。ついに、とてつもない心細さで泣きたくなって、ヘレンは心の中で大声でモートを呼んでいた。
いつの間にか後ろに誰かが立っている感覚をヘレンは覚えた。
「そんなに大声をださないでください。もう、あなたは大丈夫ですから……」
若い男の声だった。
それもよく聞く声……。
オーゼムだった。
だが、ヘレンは安堵の気持ちと共に不思議がった。何故なら今まで心の中で大声でモートを呼んでいたからだ。
後ろの方からオーゼムの柔らかい祈りの声が上がった。
すると、ヘレンの腕が少しずつ動いた。
身体が動かせるんだという安堵の息を吐きながら、ヘレンは頭の中も元通りにスッキリとしてきた。
ヘレンはとても嬉しさを感じたが、同時にとてつもない不安を感じ、今の状況を知りたくて、この大部屋をぐるりと恐る恐る見てみることにした。
やはり、多種多様な絶滅危惧種の剥製が壁の至る所に飾ってあったが、パイソン、二ホンカワウソ、マミジロクイナのように、中には絶滅種も混ざっていた。緑を基調とした内装だった。高価そうな硬い絨毯が敷かれ、剥製以外は、在り来たりだった。今まで気がつかなかったが、バラの香りがする部屋だった。
どうやら、女性の部屋のようだ。
天蓋付きのベットがどこか女性らしさを際立たせていた。
「それにしても、凄く豪奢な部屋ですね。私の家よりも大きいのでは?」
オーゼムは呑気な声を発し、部屋を隅々まで調べそうな顔になっていた。
ヘレンはさっきのメイド長がまた来てしまうのではと気が気でなかったので、たまらなくなってオーゼムに告げた。
「オーゼムさん。ジョン・ムーアは一体何者なんですか? あなたなら何かがわかるはずだと思います。ジョンは私をどうしようとしたのでしょう? この部屋に押し込んで一体……?」
オーゼムは突然に深刻な顔付きになり、ヘレンに顔を向けた。
「今からお話する言葉は、決して、モート君には言わないでくださいね……約束できますか?」
ヘレンは非常に不安だったせいで、素直に頷いた。
「今から、10年前にジョン・ムーアという人物がいました。その男は恋人を失くし、失意の念を何年も持ち続けて病気になったのです。そうです。心の病です。それは……絶滅・死滅・道連れ・終焉というものが、彼にとっては興味が持てる。唯一の生き甲斐のようなものになったのです」
ヘレンは一体何を言っているのかと眉を擦った。けれども、少し冷静になればそれらが連想させるのは、全て死だ。身震いして、オーゼムの話に聞き入ると同時に疑問に思った。