第20話

文字数 758文字

 館長から聞いた話では、ジョン・ムーアは好事家で孤独を何よりも愛している男だった。図書館員はそう軽口で言っていたようだ。本当か定かではないが。ヘレンもそう思った。何故なら、ジョンはヒルズタウンから一歩も動かない登山家だったのだ。
 資産家でもあるジョンは、やはりアリスの血縁者なのではと思えてくる。だけど、ヘレンは考えるのを止め一度、会ってみようとしていた。
 ヒルズタウンまでヘレンは電車を使った。
 路面バスはホワイト・シティでは、しょっちゅう雪のためエンストを起こしていた。
 今は、6時半。
 粉雪の舞う真っ暗な夕方だった。セントラル駅の改札を抜けると、モートの鋭い目で警戒をしていた顔を思い出した。

 wolf and sheep2

 天使だと名乗る奇妙な男。オーゼムの話はアリスには肉親を失うほどの悲哀であった。世界の終末? どうして……そんなことが……? アリスには今は肉親と呼べる人は一人もいないが、変わりに喪失した時のとてつもない悲しい気持ちは誰よりも多く持っていた。だが、人類が終末を迎えることは、それ以上の恐ろしいまでの悲しみだった。
「ですから、希望があるとすれば、それはモート君なのです」
 オーゼムはモートに向きながら強い口調で話した。
 ここはノブレス・オブリージュ美術館の近辺にあるちょっとお洒落な喫茶店「ポット・カフェ」だった。三人はグレードキャリオンの帰りなので、窓の外はすでに真っ暗な闇で、白い雪も灰色に見える。

 ホットコーヒーをそれぞれ三人で頼んでからの約1時間。
 オーゼムはモートとアリスに世界の終末について丁寧に話していた。
 勿論、オーゼムの話には奇抜な説得力があった。
 アリスはコーヒーのお替りを時々ウエイターへ頼みながら「そんなことはありえません!」と、悲しみのあまり強く否定をしていた。
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登場人物紹介

モート・A・クリストファー

アリス・ムーア

シンクレア・クリアフィールド

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