第47話

文字数 676文字

Lust 2
 ヘレンは昨日の謎の病の苦しみからすっかり復帰していた。今になって思い返せば朧気に覚えているのはモートの顔だけだった。
 モートのお蔭で、あの壮絶な苦しみがほんの数分だけの苦しみだったようにも思えてきた。呼吸ができず体中が悲鳴を上げるかのような激痛は、本当に苦しいことだったのだが、今では酷い悪夢を一瞬垣間見ただけだったかのような感じだった。
 元気も取り戻し、また気を取り直してジョン・ムーアの秘密を探ることにした。あの男には必ず何かがある。
 ふと、あのモートが産まれた絵画と同じ絵がノブレス・オブリージュ美術館にあるのではという考えが浮かんだ。
 それは、広い美術館のことだ。数十枚もあるかも知れない。
 ただの勘だが、きっと何かがある。
 それだけたくさんあればモートの秘密に繋がっていき、やがてジョン・ムーアの何らかの真相が浮かび上がるのでは?
 そこまで考えて、今日の朝早くにヘレンはモートに絵探しを頼んだのだ。
「ひとまずはジョン・ムーアにまた会わないと……モートとオーゼムさんも一緒に来てくれるのよね」
 ヘレンは遅めの昼食を頼みにベルを鳴らそうとしたが……。
 モートからの電話で昼食を諦めた。
 厚底のブーツで、グランド・クレセント・ホテルの玄関へと急いで向かうと、丁度道路の反対側の路面バスからオーゼムが降りて来た。
 これから、オーゼムとノブレス・オブリージュ美術館に一緒に行くのだ。
 ヘレンはオーゼムに笑顔で挨拶をしたが、オーゼムは難しい顔を終始していた。
 灰色の空からは粉雪が舞っている。
 オーゼムの顔色と同じく気温は下がり気味だった。

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登場人物紹介

モート・A・クリストファー

アリス・ムーア

シンクレア・クリアフィールド

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