第30話

文字数 858文字

 辺りの空気が途端に穏やかになった。暖炉からの暖かい熱が部屋中に充満し、クリームシチューのいい香りが満たした。
「さあさあ、モート君もお腹が空いているでしょう。細やかながらクリームシチューをおあがり」
 オーゼムは二階の三人の遺体を魔法のように光の彼方へと消え去ると、二人をキッチンの隅の角材の椅子に座らせて、テーブルには鍋ごとシチューを置いた。
「あ、ああ……頂きます……」
 モートは朝食を取っていなかった。なので、随分と美味しいシチューを食べることにした。食べ終わったら早速事件の調査だ。
 あれほど不思議なことや恐ろしいことに震えていたミリーもシチューには満足していた。
 

 seven deadly sins 2 
 

 ヘレンは二ホンオオカミやバーバリライオンなどの標本や剥製のある広大なリビングへと通された。二人の女中が薪をくべる大きな暖炉には、珍しい青い炎が揺らめいていた。座るようにと促された椅子も、一級品のような革張りだった。向かい合ったジョン・ムーアは聞いた話とはまったく違うようだ。一年前の話の風貌とは似ても似つかないほどに痩せこけた青年になっていた。
「やあ、いらっしゃい。一年中この屋敷に閉じこもっていてね。不健康極まりない。確か……聖パッセンジャーピジョン大学付属古代図書館から借りた一年前の本を図書館へ返してほしいだったよね。死神についての本? そうですか……でも、すまないが、もう忘れてしまったよ」
 ジョンは苦笑した。青い炎の暖炉に照らされた横顔は、若いのにまるで隠居生活をしているかのように、まったく覇気がなかった。
「……そうですか……困ったわ。その本には絶滅の危機に瀕している。ある鳥が載っていましたのに……」
「それは、本当ですか?」
 ヘレンは標本や剥製が、全て絶滅種なのを見抜いていた。なので、ジョンは絶滅種に興味があると踏んだ。
「うーん……。一年前……一年前……。あ! 本は確か貸してしまったのですが、タイトルは、seven deadly sins(七つの大罪)というグリモワールだった!」
 

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登場人物紹介

モート・A・クリストファー

アリス・ムーア

シンクレア・クリアフィールド

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