第79話 ジンクス

文字数 1,316文字

 この地に住んで40年。
 マンションに入居してすぐに、クリーニング屋さんが挨拶に来た。週に3度、お伺いに来てくれる。おなかも大きくなってたし、ワイシャツは毎日変えるのでお願いした。

 しかし、高いのよね。新婚の若夫婦の薄給には。それにワイシャツ1、2枚じゃ悪いと思って、必要ないものまで出してしまうお人好し。月々のクリーニング代がバカにならない。
 それに、週に3回来られるのがストレスになる。子どもが寝ていてもピンポーン。
 ピンポーン、ピンポーン。ピンポーン。
 来る、来る、来る。
 あのクリーニング屋、苦手。
 それが恐怖に。
 悪いけど、何度か居留守を使い、働くので留守にしますから、と断った。
 
 それ以降、呪いでもかけられたように、私が利用したクリーニング店はことごとく閉店していく。

 すぐそばのクリーニング店、ほどなくして、旦那様が亡くなった。隣の私が通っていた美容院の男性店主も亡くなった。
 残された未亡人ふたり。美容院は奥様が頑張っている。クリーニング店はすぐに閉店し、やがて再婚したらしい。

 次に見つけたクリーニング店。値段を聞いてびっくり。
「麻ですからね」
と言われ、断れなかった。
 これっきり、と思ったらなにがあったのか、すぐに閉店した。
 
 それから、小さなスーパーの中のクリーニング店は、スーパーの店主が投資に失敗したとかで倒産。

 商店街のクリーニング店は季節になるまで預かってくれて、ありがたかったのに、閉店した。
 次は高齢の女性店員が、いつ行っても暇そうで本を読んだいた。
 これで給料いただけるなんて羨まし……
「なに読んでるんですか?」
と聞いたら、ボケないように、脳トレーニングの漢字のパズルだった。
 まあ、暇そうだったので閉まっても納得。

 次は足を伸ばして行った、手芸店を兼ねる個人店。店の女主人は話好きで……忙しいんですけど。
 そこもなくなり……なくなっていくのも当然のゴーストタウン化した街。

 かつては70棟以上ある団地に大勢が暮らして、活気にあふれていた街も高齢化。増えるシャッター街。肉屋も魚屋も八百屋も寿司屋もなくなった。増えたのは高齢者施設。
 新しく建てるのは、なにかと思えばまた高齢者施設。だから私も働いているんですけど。
  
 
 しかし朗報が。
 高齢化した、ゴーストタウン化した、駅から歩いて20分はかかる街に大学が建つ! 建つ?
 それに先立ってだか、関係ないのかはわからないが商業施設ができた。スーパー、本屋、ファミレス、回転寿司、百均、ファストファッションの店。歯医者、それに、クリーニング店。
 住宅も建った。
 マンションが。ワンルームマンションも。

 大学は川に面している。私のウォーキングコースの川沿いがきれいになっていく。長い期間をかけて工事が行われ橋までかかった。おまけにカヌーの船着場もできるという。カヌーなんて見たことないが……
 バスの路線も本数も増え、周辺には活気が……

 完成した。オープンした。高層ではない。広々としている。囲いがない。自由に通り抜けできる。食堂もカフェテリアも利用できる。図書館も。まだ利用してないが。

 ああ、よかった。

 話はズレましたが。


【お題】 クリーニング店

 
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