第99話 リーダー

文字数 1,667文字

 私が勤め始めた時のリーダーは若い女性だった。きれいな方だった。その頃は男女とも若い職員が多かった。
 私は最初は週3日3時間の周辺業務。1年経てば定年の年齢。小遣い稼ぎになればいいが、いやならすぐにやめようなんて思っていた。

 施設もオープンしたばかり。入居者よりスタッフの方が多かった。配膳もシーツ交換も大勢で楽だった。リーダーは優しく丁寧。月に1度は親睦会を……なんて楽しかった。
 ところがこのリーダーさん、通勤にものすごく時間がかかった。施設長に引き抜かれたらしく、確かに素敵な方だったが、時間通り帰れるわけではない。勤務時間の後は事務仕事。
 入居者が増え、忙しくなると職員が辞めていく。欠けた分は超勤になる。補充されればまた別の職員が辞めていく。いつまでたっても超勤はなくならない。そしてこのリーダーも疲れきって辞めていった。
 
 次の若い女性のリーダーはマイペースだった。皆が言った。マイペースだから……
 前のリーダーが辞めたので異動してきたが、歓迎会の時に遅刻してきた。
 マイペースは褒め言葉か? 来るのが遅い。仕事が遅い。遅すぎる。丁寧だが。
 丁寧すぎる。終わった時間が終わった時間。時間内に終わらせようとは思わないらしい。
 夜勤が夜9時に入ると夕食の洗い物が終わっていない。その頃は夜のパートはいなかった。夕食は6時からだ。夜勤は洗い物から始めなければならない。さすがに呆れて愚痴った。

 最初は仕事ができる人だと思っていた。年長者を差し置いてリーダーになった方だ。しかし気付いてしまった。桁違いに遅い。レベルが違う。
 だいたい私が朝出勤した時点で、誰が夜勤なのかわかる。起こしている人数で。ほぼ全員起こしていたり、2、3人だったり。このリーダーの時はひとりもいない。
 呆れることばかり。呆れたのを顔に出さないようにするのも大変なくらいすごかった。よく他所でやってこられたな、と思う。辞めた後はボロクソに言われていたが。 
 
 入居者をトイレに座らせたまま朝礼に行ってしまう。忘れたのか故意なのか? トイレの電気は何分か経つと自動的に消える。文句も言えない、ナースコールを押すこともできない入居者は眠っていた。
「速けりゃいいってもんじゃありません」
 そう、丁寧です。配膳も盛り付けもきれい……
 差し入れのりんごを、時間をかけて飾り切り。
「ほら、かわいいでしょう?」
 でも、入居者が、かじれますか? それを? 

 書類提出等も遅かったそうだ。締め切りを過ぎ催促されると、
「みんな私が悪いんですよね」
 その通りだ。少し言われると、
「好きでリーダーになったわけじゃないですから」
 ユニットの雰囲気は悪くなる。ただ、彼女はO君を育てた。最初何度も遅刻した高卒の新人の男性を独り立ちさせた。相当イラついていたが。それだけは素晴らしい功績だ。
 仕事は徐々に覚えていけばいい。が、遅刻はダメだ。O君はダメな遅刻をひと月に3回した。夜更かしに慣れている若い子が、朝7時前に来ていなければならない。電話をしても寝ていて起きない。
 皆、この子は続かないだろうと思ったが、見込み違い、嬉しい見込み違い。O君は半年すると独り立ちした。他の人より少し時間がかかったが。

 そして、ついに派遣さんが来た。外国人だが年配のベテランの女性。早番と遅番で夜勤はない。ベテランでも施設のやり方でやってもらわねばならない。彼女のシーツ交換は速かった。速かったが、うちの施設では角はきっちり三角折に。彼女のは縛っている。雑だが速い。言われても、それを直そうとはしない。
 ことごとくリーダーと揉めていた。派遣さんはすぐに施設長に文句を言う。果ては、リーダーに向かって、
「あなた、外人だと思ってバカにしているんですか?」
 ふたりとも、やる気をなくしていた。やがて、派遣さんは突然休む。朝、電話も来ない。夜勤が残り、遅番に電話して出てきてもらう。そんなことが当たり前になり、派遣は更新しなかった。
 リーダーも程なくして辞めて行った。有休を使い切り、送別会も挨拶もなかった。 
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