第67話 愚かな発明

文字数 1,388文字

 昔、貧乏で年をとった漁師がいた。いくら働いても、妻と3人の子どもをかかえて、満足に食べてもいかれなかった。

 ある朝、いつものよう浜にやってくると、網を打ったが、魚1匹もかからなかった。
 かわりに首の長い真鍮の壺がひとつ入っていた。壺の口にはしっかりと鉛の蓋がしてあって、まわりに神さまのみ名をきざんだ封印がしてある。 
 漁師はナイフを取り出し蓋を開けると、煙が出て、中から見たこともない四角いものが出てきて、雲に届くくらい大きくなった。
 それは大声でわめきはじめた。
「どんな方法で殺してもらいたいか?」
 漁師は、びっくりしてしまった。
「な、なんで出してやったワシを殺すのだ?」
「オレはスマホだ。人間をダメにすらから神様に長い間閉じ込められていたのだ。
 最初は助けてくれたものには、どんなことでも願いを叶えてやろうと思った。しかし、長すぎた。しまいにはむしょうに腹がたった。いや気が狂ったといったほうが、いいかもしれん。
 今後、もし助けてくれるものがあれば、これはもう情け容赦なく殺してやろう。そして、ただ、どんな死に方がいいか、それだけは選ばせてやろう、と誓ったのだ」
 聞くと、猟師は、すっかりおろおろしてしまったが、妻と3人の子のために必死に考えた。
「では、死に方を決める前に、ひとつだけ、頼みがある。神のみ名に誓ってだよ。ひとつ、これから聞くことに、正直に答えてもらいたのだ」

 こうまで言われては、まさか断るわけにもいかず、何を聞かれるのだろうかと、心配しながら、スマホは答えた。
「なんでも聞け。だがぐずぐずするな」
「おまえは、ほんとうに、この壺に入っていたのかね? ワシはそれが知りたいのだ。神さまの名にかけても、誓えるかい?」
「ああ、神さまの名にかけて、誓うとも。たしかに、その壺の中に入っていたさ。正真正銘まちがいなしだ」
「ところが、それが信じられんのだよ。こんなちっぽけな壺の中に、おまえみたいなデカいやつが入れるわけがないじゃないか。どうしたって、そんなからだを、すっぽりおさめることなんて、できっこないよ」
「なにをいうか、誰がなんと言ったって、たしかに、おれは、その壺の中に入ったいたのだ」
「いや、どうしたって、信じられっこないさ。もっとも入って見せてくれるのなら、話は別だがね」
と、たちまち、スマホの姿はみるみる白い煙になり、大きな煙のかたまりは、壺の口にすいこまれていった。
「どうだ、疑い深いやつめ。さあ、これで、すっぽり入ったぞ。まだ、信じないかな?」

 漁師は鉛の蓋を手に取ると、大急ぎで閉めてしまった。
「やい、スマホ! 今度はおまえが命乞いをする番だぞ。どういう殺され方がいいか、早く決めるのだ。いや、それよりも、海の底に投げ込んでやるほうが、いいかもしれぬて」

 スマホはカンカンに怒ったが、封印があるので、あとの祭り。
「おじさん、おじさん、けっしてひどいことはしやしない。いやそれどころか、どうすれば、大金持ちになれるか、それも教えてあげるから」
 漁師は2度と騙されない。
「もう1度網を投げてみろ。すごいものが引っかかるぞ。王様が、目もくらむほどの大金で、お買いあげくださるはずだ」
「それはどんなものなんだ?」
「人間が発明した愚かなものさ。神様は封印したんだ」
「なんだい? いったい?」
「カクとシュウキョウ」


【お題】 スマホが話し出した!一言めは?
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