第11話 モーツァルトはお嫌い?

文字数 1,449文字

 クラシックを聴き始めてからずっと、モーツァルトの良さがわからなかった。初めて買った名曲集のレコードにも、いまあるCD集にもベートーベンと同じくらい枚数が多い。
 全部聴いてみたが、交響曲40番しか、引っ掛からなかった。私はおかしいのか?

 その頃の友人は、ビートルズも好きだし、モーツァルトも好き……なんて、カッコよかった。私はビートルズも、カバーしているほうが好きだった。尾崎紀世彦とか。

 モーツァルトの良さは歳をとるとわかるらしい。そんなことも言われた。
 ある時、ピアノの先生に借りたモーツァルトの短調のソナタを聴いて、初めて虜になった。イングリット・ヘブラーの弾く旧8番。
 腕もないのにレッスンした。

 それからはモーツァルトの短調ばかりを聴くようになり、短調に限っては、ようやく良さがわかるようになった。モーツァルトが作曲した626曲のうち、短調はたった19曲しかない。

 チャットノベルでそこらへんを調べていたら、モーツァルトをボロクソにけなしていたピアニストがいた。
 クラシックピアノ界最強のエゴイスト……

✳︎✳︎

 グレン・グールドのモーツァルトへのこき下ろし方は半端ではない。モーツアルトは35歳で早逝しているのだが、グールドは前から「死ぬのが早すぎたのではなく、死ぬのが遅すぎた」と言っていた。

 モーツァルトの作曲態度を、安易で紋切り型の繰り返しに過ぎないと、ピアノで演奏しながら説明する。この説明には、ピアノ協奏曲の24番を使って説明するのだが、オーケストラが演奏するパートをすべてピアノ1台で弾きながら説明する。このピアノが、鮮やかで、オーケストラに引けを取らないくらい魅力的なのだ。ピアノの演奏の上手さと、語り口の激しさが、見ている方にとっては、メチャメチャ刺激的だ。

 大体、天下の大作曲家、モーツァルトを、ここまで正面切って誰が否定するか? モーツアルトの美しいメロディーが変化していくさまを、ピアノを弾きつつグールドが解説し、その変化のさせ方が簡単に予想がつき、手抜きだというのだ。だが、グールドの語り口はともかく、演奏の方は見事で申し分ない。こんなに美しく移ろうのに、どこが悪いの?

 この発言だが、どこまで本気なのか真偽のほどはわからないが、グールドの言っていることは一理あり、完全に本気なのかもしれない。だが、彼はモーツアルトのピアノソナタは、反面教師的に否定的なことを言いながらも全曲録音しているし、「モーツァルトが書く展開部は、展開していない」とこき下ろしたピアノ協奏曲のうち、第24番だけは見事な録音を残している。
https://brasileiro365.com/2021/10/08/グレン・グールド・ギャザリング%E3%80%80その2%E3%80%80「い/

 グレン・グールドの名は映画『羊たちの沈黙』に出てくる。監獄のレクター博士がグールドのバッハの『ゴルトベルク変奏曲』55年の録音を差し入れに望むのだ。
 グールドはバッハをこよなく愛し、ショパンは数曲しか録音していない。
 それに演奏会で弾くことを32歳の若さで辞めてしまった。
 変わり者。外見はアイドルのようにカッコよかったが。
 1977年、グールド演奏によるバッハの「平均律」第2巻 前奏曲とフーガ第1番ハ長調の録音が、未知の地球外知的生命体への、人類の文化的傑作として宇宙船ボイジャー1号・2号にゴールデン・レコードとして搭載された。
 
 検索してみると、モーツァルトが嫌いという方は結構多いようです。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み