第17話 ひ孫

文字数 1,069文字

 子どもの頃、母は麺つゆなど買わなかった。そーめんより冷や麦が多かった。少し太めの麺。ピンク色の麺が数本入っていて、それを姉と取り合う。
 今思うと、なんて幸せな子ども時代。

 子どもの頃は冷たいつゆで食べたかった。
 早くに煮立てて冷ましておけばいいのに、かあちゃんのものぐさ……

 母の麺つゆは具沢山。入っていたのは、たぶん、脂身の多い安い豚コマ。
 一緒に肉屋に行くと、切り身や、薄切り肉でさえ、買うことはなかった。
 豚コマ100か200グラム。切り落とし、ね。
 それが当たり前だと思っていた。
 魚屋では、マグロのブツ。刺身なのだが、やはり切り落としだったのか、大きなサイコロの形。
 友達と、しりとりをして『ブツ』と言ったら、『なに?』と言われた。
 彼は、マグロのブツを知らなかった。あーあ。

 それで、そーめんのつゆは、鍋に水を適当に入れ、豚のコマと、ありあわせの野菜を入れる。にんじん、椎茸、タマネギ、インゲン……調味料は醤油に、ミリンなんて使ってたのかしら? だしは?
 鰹節を削るのはよくやらされたけど。
 あとは、手伝いしなかったからわからないや。
 文句ばかり言ってたから。

 最後に卵を入れて止める。
 

 それを思い出し作る。
 よく作る。
 
 それが、孫たちに評判がいい。
 おばあちゃんちに行ったら、アレが食べたい、と言うのだそう。

✳︎

 父は真面目で子煩悩だった。働き者で家族思いだった。
 子供の頃は滅多に外食などしなかった。そんな余裕はなかったのだろう。
 だから、たまの外食は楽しみだった。正月は上野の聚楽でスパゲティミートソースといちごパフェを食べた。
 何年か、毎年同じものを。それがなによりの楽しみだった。

 あとは時々近くの中華料理店。
 父とふたりで入ったことがあった。頼むのはラーメンと餃子くらい。父は二級酒を飲んでいた。あとから相席になった男が一級酒を頼んだ。
 子供心に差を感じた。
 父も感じたのだろうか? 二級酒をもう1本頼んだ。酒飲みの父には質より量。

 しかし、今、調べて見たら、日本酒の等級は質とは関係なかったらしい。

 子供の頃は酒を飲むと陽気になる父が好きだった。
 母に死なれてからは、酒を飲むと泣くようになった。酒に飲まれるようになった。

 若い娘には許せなかった。
 だから、この世でいちばん嫌いな酔っ払い。
 思い出したくもない。

 でも、投稿するようになって、キャラクターを登場させたりしている。

 ひ孫が来ると写真の前で手を合わせてくれる。5人もいるのよ……


 ひいおじいちゃんは真面目で子煩悩だった。働き者で家族思いだった。
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