第59話 雨の墓参り

文字数 1,169文字

 雨だ。土砂降りだ。つくづく雨女。ほんとに雨女であることを証明した。

 コロナ禍でずっと行けなかった義兄の見舞い。ここ数年で人工透析になり心臓手術もした。会いに行こうにも、来てくれるな……と。

 ようやく会えるから、計画した東北旅行。
 でも、たぶん、雨…‥だとは思っていたけど。

 そういえば、去年行った松島も雨だった。大昔に行った松島も雨で、カッパを買った記憶が。
 7月に行った九州は線状降水帯で、ずっとニュースが流れていた翌日だった。
 一緒に行った姉が晴れ女だったから対決!
 車に乗ると雨。打ち付ける雨。降りると止む。
 グラバー邸も阿蘇山も高千穂峡も湯布院も、熊本城も観光するときはぴたりと止んだ。
 そんなバカな。運のいい姉。
 晩年は旅行ざんまい。老後資金に心配はない。ただ、子どもに恵まれなかった。だから私の子どもたちをかわいがってくれる。

 三陸沿岸道路も雨。もう、降りて観光どころではない。ホテルに直行。
 老夫婦の旅行は金をかけない。泊まるのはビジネスホテル。ビジネスホテルは夕飯がない。
 雨の中、空腹で歩いて探した。見つけたのはどこにでもある居酒屋のチェーン店。
 私はいつも梅酒を1杯。自分の作ったものと比較をする。これっぽっちでこの値段か。

 次の日も雨混じり。夫が立てた素晴らしいプラン。日本列島を右端からほぼ左端まで横断した。あるのは、山々、ときどき道の駅。紅葉でもしてたら素晴らしいだろうに。

 ようやく着いた夫の実家。義兄は杖を付き90キロあった体重が58キロに。頬はこけ、まるで別人。姉と同じ歳なのに。
 週に3日、独身で同居している次男が病院の送り迎えをしている。仕事の合間に。
 
 義父は義兄が嫁をもらったときに家を建て替えた。広くて立派で羨ましかった。
 結婚式も盛大だったという。長男が生まれた時には大喜び。
 半世紀近く経ち、家は手入れもされず床は抜けそう。雨漏りもするとか。
 跡継ぎの長男は離婚。この家はどうなるのだろう?

 隣近所も高齢者ばかり。子どもたちは家を出ると戻らない。年寄りがひとりで住んでいたり、家だけそのまま残り、荒んでいく。
 畑には背の高い草が生い茂り、義母が小豆まで作っていた場所はゴミ捨て場。
 孫の中学は生徒3人に先生がふたりとか。

 しばらく話し、墓参りに行った。小雨が降る。熊に気をつけろ、と脅される。
 父母が眠る立派な墓石は、夫が金を出した。
 まだ若い頃、マンションのローンに車のローン、親の援助などなく生活に余裕はなかった頃の話。
 夫は機械で指を切った。ほんの少し切り落とした。
 労災から金がおりた。私には内緒。
 夫は墓のためにその金を使った。自分が入ることはないだろうに。
 入れるのかな?

 イオンで買ってきた花を備える。
 子どもが5人。孫が10人。ひ孫が10人。
 無限の人を並べたる不滅の列。

 
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