第70話 癖には慣れたけど

文字数 2,179文字

 見栄っ張り。出したがり。
 結婚前、うちに来るときは手ぶらで来たことはなかった。父に酒、タバコ、海苔(?)。
 若いのに気が利くと思っていた。
 どこかの家に行くときは、どこまでも買いに行く。
 

 友人や親兄妹には、いいところを見せたがる。
 義妹が小遣いを受け取らないと、
「金余ってるんだ。ベランダからばら撒いてやろうと思ってた……」
 うちはいつでも火の車。  

 
 おかずがたくさんないと不機嫌。たくさんあったらワンパターンだと文句を言う。
 ブイヤベースはサフランも買って、3度使ったけど、まずいと言われた。はっきり言われた。金輪際作るものか。

 テレビつけっぱなし。1日中ついている。夜中も、いびきが聞こえてるのに。消せばまたすぐつける。そしていびき。
 フライパンで殴りたくなる。


 私が出す音にはご不満。
 焼きたてパンを食べたくて買ったパン焼き器。明け方ガタガタうるさいから無理。
 まあ、そうなんだけどね。
 ピアノは消音でヘッドホンしてても、叩く音がうるさい、と。
 まあ、そうなんだけどね。
 いなくなってよ。


 出かければすぐに帰りたがる。道路が混むからと。出かけるのはビールをおいしく飲むため。


 引き算ができない。給料持ってくれば、いつまでもあると思っている。


 通販や広告ですぐに買う。習字の通信教育。1度も添削出さずに終わり。
 真向法とかいう、体を柔らかくする体操。金だけ払って終わり。体はガチガチ。
 腹筋系が2台。私がかなり使ったけど、すでにない。金魚運動とかいうわけわからないもの。レッグマジックという痩せる器具。
 買うだけで満足らしい。


 最近は家にいるので、料理もするようになった。電子レンジで焦げ目がつくという鍋みたいなもの。
 便利かも……でも、魚はグリルでしっかり焼きたいから、結局は温めるときしか使わない。
 包丁。これはよかった。こんなに切れるのね。さわっただけで、ふたり血だらけ。

 
 掃除してないと怒る。
 妊娠中に膀胱炎になった。 
 辛いんです。辛いけど漢方薬しか出してくれなくて、効かなかった。
 辛いんです。3日たっても辛かった。辛くてゴロゴロしてたら、掃除しろと怒られた。 
 泣き泣き掃除した。この恨み、死ぬまで忘れない。


 長女の私立高校入試の前日に、義妹家族が我が家に泊まりに来たいと言う。高校入試の前日。
 姪がマーチングバンドの全国大会に出場するので見に来る。泊まるのは義妹夫婦ともうひとりの姪の3人。泊まるのは狭いマンション。
 普通、娘の高校入試前日に泊まらせるか? 客間がある家ではない。
 夫が電話を切ったあと、呆れた。怒れば喧嘩になるから怒りはしない。来れば、もてなしはするけど顔には出るだろう。来た方も恐縮するだろう。そこらへんが夫にはわからないらしい。 
 結局夫は明け方パーキングまで迎えに行き、私と娘は時間差で顔を合わせることなく家を出た。


 癖も慣れたから、波風立てずに穏やかに。
 ああ、こんなこともあった。

 従兄妹の三兄妹は夫と違い出来が良かったそうだ。市内に大きな家があった。結婚前に紹介された叔母は口うるさい方で怖いくらいだった。結婚式に招待したときに用意した、ホテルの朝食がパンだったので文句を言い、義妹がおにぎりを買いに行ったとか……

 義母が病気で亡くなったのは結婚した翌々年だった。私たちはまだ20代後半だった。田舎の実家に親戚が集まっていたら連絡が。
 叔母の長男が自殺した。
 義母の死を知っての行動か? 大勢の親戚はふたつの葬式に分かれた。

 叔母の次男に会ったのは義父の葬式の時だった。まだ30代前半だった。
 次男は東京で働いていた。夫とは歳が近いので子供の頃はよく遊んだらしい。年賀状のやりとりだけはずっとしていた。
 下の妹(従妹)はその後、若くして癌で亡くなった。かわいそうな叔母さん。それでも次男は田舎に戻らず結婚もせず働いていた。やがて叔父は認知症になり施設へ。叔母も弱ったがひとり暮らしを続けていた。

 夫も従兄も、もう50代だった。夫の携帯に病院から電話が来た。従兄が横浜の病院に入院して危篤状態。
「延命治療どうしますか?」
 なんの冗談?
 20年も会っていない従兄? 田舎の叔母ではもう、埒が明かなかったのだろう。

 夫は会社を早退してきた。ふたりでわけもわからず病院へ行った。辿り着いた病院の先生と夫は話した。従兄は白血病だった。
 このまま亡くなられたらどうなるの? 
 私たちがどうにかしなけりゃならないの? 

 夫はその頃仕事が忙しかった。しかし、できるだけのことをした。娘が心臓手術の時でさえ、最低限しか休まなかった。カテーテル検査にも、来なけりゃダメですか? と先生に聞いていた。
 それが、20年ぶりに会った従兄の窮地のために仕事を休み何度も見舞った。従兄は幸いにも意識を取り戻し退院した。
 住まいを引き払い田舎に戻る。

 どうか、生きて戻れますように。どうぞ、こっちで亡くならないでください……
 本気で思った。最悪を想像した。ご遺体を運ぶのか、こちらで焼くのか? もう、頼れる身内はいなかった。
 幸いにも従兄はひとりで帰郷した。お礼に稲庭うどんと菓子が送られてきた。安堵した。

 しかし数ヶ月後に亡くなった。夫は葬儀に出た。叔母は弱り、その後の後始末は遠い親戚がしたらしい。


【お題】 彼の癖ツヨ項目一覧
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