第21話 おしゃれ

文字数 1,243文字

 おしゃれにはあまり関心がなかった。
 眉を整えられない。髪をうまくブローできない。服の組み合わせがわからない。
 化粧は得意ではない。アイライナーを入れてもすぐに拭き取る。つけまつげが流行った時も無関心。ネイルも苦手。
 
 そんな私がブティックで14年働いた。流行りの店の服を着て、髪にパーマをかけ、朝濡らしてムースをつける。(1番楽な髪型)
 口紅は店長に言われるままに、濃いピンク。よくいただいた。派手な店長が付けると似合わないのだ。地味な私が付けると褒められた。

 スタッフは皆オシャレだった。服が好きで好きで働いているのだ。
 Kさんは、着てきた服が気に入らないからと、店長にお願いして、タクシーを呼んで着替えに行った。スマートなので店の服は大きすぎる。
 店長は、「気持ち、わかるわあー」と許した。私にはわからない。
 店長は、客がいない時は鏡を見る。日に何度も。手鏡を持ち後頭部も。
 この人は、前髪が伸びると自分でちょくちょく切っていたが、どうしても気に入らなかったらしい。私をひとりにして美容院にカットしにいった。
 そんなことがちょくちょくあった。少しの白髪も許さず、部分部分しょっちゅう染めていた。
 髪には相当のダメージだ。もうお歳だ。薄くなった髪にボリュームをつけるのに必死だった。

 そういえば、保険会社の営業所にいたときも、Sさんはよく遅刻してきた。髪型がキマらないからと。
 そして昼休みに美容院へ行った。彼氏に会う日だったのかもしれない。
 でも、女はあれくらい気にした方がよかったのかも。
 
 夫にはよく言われた。
「もっとおしゃれすれば?」
 娘にはよく言われた。
「貧相な格好で学校来ないで」
 かなりきつい。
 娘は勉強はダメだったが、美容には気を使っている。
 先日、娘の家に行ったら美容の本があった。もうすぐ40歳になる娘は、子供ふたり産んだあとも体型を保っている。
 本をパラパラめくったら、

 髪は乾かさないで寝るなら洗うな!

 ああ、枕にタオルを敷いて、濡れた髪で何十年も寝ていた私……

 娘はストレートの長い髪を、自分でキレイに染めている。孫ふたりもロングヘアー。いつも編んだりかわいくしている。
 私は苦手だった。娘は不満だったろう。
 お嫁も苦手らしい。孫(女の子)の髪は息子が結ぶ。


 そういえば、亡くなった父が、薄くなった前髪を気にして、私にドライヤーを借りた。
 一生懸命セットして、前髪をキメてスナックに行った父を思い出してしまった。

 先日、秋物を買った。ブティックにいたときには、店頭品だったメーカーのフリーサイズのトップス。
 あの頃はスマートだったのでフリーサイズでは大きかったのに。
 店員は素敵なブラウスを着ていた。たぶん自分で買うのだ。7掛けくらいで。

 化粧品も買った。コマーシャルで気になっていたファンデーション。
 ポンポンポンでシミが消えた!
 という若見えファンデ。
 届くのに1週間以上かかった。相当注文があるのかしら?
 さっそく、ポンポンポン……

 消えるわけない。
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