第58話 忘れられた名前
文字数 1,247文字
ボクは高かった。血統書付きだ。
「海外ドラマに出てくるようなヨークシャーテリアね」
お嬢さんはひと目で気に入り、長ーいローンを組んで買ってくれた。
ボクは見事な金髪(?)を伸ばし、トリートメントをして、手をかけてもらった。エサは極上、敷物はフカフカ。
お嬢さんは仕事から帰ると毎日散歩に連れていってくれた。
でも、幸せは長くは続かなかった。お嬢さんは結婚し、社宅には連れて行けないからと、ボクはおかあさんのところに連れていかれた。
おかあさんは、ぐうたらで散歩も連れていかない。昼は寝ていて夜はいない。エサはまずいものに変わり、敷物はボロボロになっていった。
おかあさんはボクを「ろくでもない犬」と呼んだ。
お嬢さんはローンを払いきれず、おかあさんが尻拭いした。そんなことは1度ではないらしい。
「バカ娘のバカ犬、ろくでもないろく犬」
おかあさんは、ボクを蹴った。
ボクは痩せて毛はボサボサ。
ある日、おかあさんはおにいさんと話していた。
「山に捨ててきてよ」
ボクは逃げたけど、ケースに入れられ連れて行かれた。でもそこは山ではなく公園だった。
そこで新しい飼い主に紹介された。
また、若い娘さん。犬の匂いがする。
でも、娘さんは、がっかりしたようだ。おにいさんからボクのことを聞いて、かわいそうに思い、自分が飼っている犬が、昼間ひとりじゃかわいそうだから、とボクをもらうことになった。
気に入られなきゃ、山に捨てられる。ボクは家にいたコロンより強いとこを見せようとした。コロンは弱い男で、追いかけると逃げた。階段を駆け上がり、ベッドにマーキングした。
娘さんの膝に乗り、寄ってくるコロンに頭突きをくらわした。
困り果てた娘さんは、今度はおかあさんのところへ連れて行った。おかあさんは嫌いだ。また蹴飛ばされる。
おかあさんの家にはネコがいた。
「無理よ。おとうさんがいいって言うわけない。返しなさいよ」
「だめだよ。かわいそうな犬なんだよ」
ボクは新しい飼い主を探す間、おかあさんのところに預けられた。
この家のネコは女の子でボクには無関心だった。人間にも無関心だった。水が欲しい時しかおかあさんのところへ来ない。おかあさんはネコを抱っこして蛇口から飲ませてやる。
おとうさんが帰るとおかあさんは説明していた。飼い主が見つかるまでだから……
おとうさんはビールを飲むとテレビを観ていた。ボクはおとなしくしていた。するとおとうさんが僕の名をおかあさんに聞いた。
「ロクよ。血統書付きよ。ヨークシャーテリア」
おとうさんは覚えられないでヨークシャーテルと言った。
「テル。テル」
とボクを呼ぶ。
休みの日、ふたりは散歩に連れて行ってくれた。何度も曲がり、もう覚えられなくなりボクは踏ん張った。捨てに行かれるのかもしれない。踏ん張るとおかあさんはボクを抱っこして笑った。
方向が変わったのでボクは降りると一目散に走った。おとうさんが追いかけてきた。ボクが家の前で座っていると笑った。
「自分の家がわかるのか、テル?」
「海外ドラマに出てくるようなヨークシャーテリアね」
お嬢さんはひと目で気に入り、長ーいローンを組んで買ってくれた。
ボクは見事な金髪(?)を伸ばし、トリートメントをして、手をかけてもらった。エサは極上、敷物はフカフカ。
お嬢さんは仕事から帰ると毎日散歩に連れていってくれた。
でも、幸せは長くは続かなかった。お嬢さんは結婚し、社宅には連れて行けないからと、ボクはおかあさんのところに連れていかれた。
おかあさんは、ぐうたらで散歩も連れていかない。昼は寝ていて夜はいない。エサはまずいものに変わり、敷物はボロボロになっていった。
おかあさんはボクを「ろくでもない犬」と呼んだ。
お嬢さんはローンを払いきれず、おかあさんが尻拭いした。そんなことは1度ではないらしい。
「バカ娘のバカ犬、ろくでもないろく犬」
おかあさんは、ボクを蹴った。
ボクは痩せて毛はボサボサ。
ある日、おかあさんはおにいさんと話していた。
「山に捨ててきてよ」
ボクは逃げたけど、ケースに入れられ連れて行かれた。でもそこは山ではなく公園だった。
そこで新しい飼い主に紹介された。
また、若い娘さん。犬の匂いがする。
でも、娘さんは、がっかりしたようだ。おにいさんからボクのことを聞いて、かわいそうに思い、自分が飼っている犬が、昼間ひとりじゃかわいそうだから、とボクをもらうことになった。
気に入られなきゃ、山に捨てられる。ボクは家にいたコロンより強いとこを見せようとした。コロンは弱い男で、追いかけると逃げた。階段を駆け上がり、ベッドにマーキングした。
娘さんの膝に乗り、寄ってくるコロンに頭突きをくらわした。
困り果てた娘さんは、今度はおかあさんのところへ連れて行った。おかあさんは嫌いだ。また蹴飛ばされる。
おかあさんの家にはネコがいた。
「無理よ。おとうさんがいいって言うわけない。返しなさいよ」
「だめだよ。かわいそうな犬なんだよ」
ボクは新しい飼い主を探す間、おかあさんのところに預けられた。
この家のネコは女の子でボクには無関心だった。人間にも無関心だった。水が欲しい時しかおかあさんのところへ来ない。おかあさんはネコを抱っこして蛇口から飲ませてやる。
おとうさんが帰るとおかあさんは説明していた。飼い主が見つかるまでだから……
おとうさんはビールを飲むとテレビを観ていた。ボクはおとなしくしていた。するとおとうさんが僕の名をおかあさんに聞いた。
「ロクよ。血統書付きよ。ヨークシャーテリア」
おとうさんは覚えられないでヨークシャーテルと言った。
「テル。テル」
とボクを呼ぶ。
休みの日、ふたりは散歩に連れて行ってくれた。何度も曲がり、もう覚えられなくなりボクは踏ん張った。捨てに行かれるのかもしれない。踏ん張るとおかあさんはボクを抱っこして笑った。
方向が変わったのでボクは降りると一目散に走った。おとうさんが追いかけてきた。ボクが家の前で座っていると笑った。
「自分の家がわかるのか、テル?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
(ログインが必要です)