四章 7

文字数 802文字

 訳も解らずに解放された。
 辻元が早口で説明してくれたが、どうやら現場から逃げていく女が目撃されていたらしい。その目撃者はその後、土橋が駆けつけて、救急車を呼んでいる間も遠くから見ていて、そのまま立ち去ったという。面倒臭いことに関わりたくなかったらしい。
 警察署を出ると、外に男と女が立っていた。やけに凸凹した二人だった。男は小柄な体型で、女はモデルの様にスラっとしていて、さらに美人だ。――どこかで見たような気が……。
「解放されてよかったですね。土橋さん」
 男の方が話しかけてきた。
「君は?」
「崎本明と言います。こっちは大塚奈々です」
「君が大塚さんか。それに崎本くん、梨香子さんから話は聞いていた」
 明と奈々は軽く会釈した。確かに肩をぶつけた女性だ。
「君が目撃者を見つけてくれたのか?なぜ?」
 明は土橋の問いには答えずに言った。
「土橋さん、提案があります」
「何だろう」
「徳田教授と梨香子の事件解決のために協力してくれませんか?もし協力してくれたら、あなたが追っている事件の解決に協力します」
「……」
「悪くない提案だと思いますけど」
 明は屈託のない笑みを浮かべている。少年の様な笑顔だな、と土橋は思った。
――俺のことも調べはついている感じだな。しかし、大塚奈々の話が聞けるならそれも悪くない。
「君たち二人とも協力してくれるのか?」
「もちろん」
「ならば、協力しよう」
 それを聞いて明と奈々はハイタッチした。土橋は続ける。
「しかし、俺の方は三日しかない。先にこちらを解決した方がいいと思うが」
「いいえ、土橋さん。この事件は必ずそちらの事件に繋がっています。今は勘の域を出ませんが、順番を間違えるとどちらも逃してしまう気がします」
「大丈夫ですよ。明は天才ですから」奈々が補足した。
 彼女の顔は誇らしげだった。
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