四章 4
文字数 966文字
「お待たせいたしました」
辻元は部下の男と共に応接室に入り、簡単に自己紹介をした。大塚は突然呼び出されたにも関わらず、特に緊張もしていないようだ。
事情を聞くだけなので、取調室ではなく刑事課内にある応接室に案内させた。部下の話では辻元が来るまでの間、大塚は文庫本を読んでいたそうだ。普通、警察に呼び出されたらそんなに落ち着いてはいられないだろう。――度胸があるな。
辻元は感心した。それにスタイルも良く、綺麗な顔をしている。さぞや大学内では人気者だろう。
「突然お呼び立てして申し訳ありません」
「いえ」
「聞きたいことあります。昨夜、一八時四四分から五二分の間、どこで何をしていましたか?」
「四四分?」
随分細かいことを聞くな、とでも思っているのだろう。大塚は訝しんでいるようだ。
「多分……、『堂明駅』に居ました」
辻元は部下に目で合図した。部下は察して応接室を出ていった。
「なぜ駅に?」
「雨宿りをするためです」
「お一人ですか?」
「はい。その少し前までは人と会っていましたけど」
「それは誰ですか?」
「そんなこと言わないといけないんですか?」
「はい。とても大事なことです」
「……田中梨香子さんという方です。大学の先輩です」
「そうですか……」
「あの……、それが何か?」
「田中梨香子さんは亡くなりました。あなたと会った後、殺されたんです」
「そう……、ですか」
辻元はその反応に違和感を覚えた。
「あまり驚かれないんですね?」
「ええ」
「なぜ?」
「話してもどうせ信じてもらえませんから」
「それでも話してもらえませんか?」
突然、大塚が微笑んだ。辻元がその訳を聞く前に説明してくれた。
「正直なんですね。そこは、“信じますよ”とか嘘付けばいいのに」
「相手に本当のことを話して欲しいなら、本当のことを話せばいい。嘘を吐かれたくないなら、嘘を吐かなければいい。簡単なことです」
大塚は声を出して「フフフッ」と笑う。笑うと綺麗な顔に愛嬌がプラスされた。不覚にも辻元は“ドキッ”とした。
「あたし、解るんです」
「解る?」
「死にそうな人が解るんです」
そう言った大塚の顔は氷のように冷たく、辻元の背筋に悪寒が走った。
辻元は部下の男と共に応接室に入り、簡単に自己紹介をした。大塚は突然呼び出されたにも関わらず、特に緊張もしていないようだ。
事情を聞くだけなので、取調室ではなく刑事課内にある応接室に案内させた。部下の話では辻元が来るまでの間、大塚は文庫本を読んでいたそうだ。普通、警察に呼び出されたらそんなに落ち着いてはいられないだろう。――度胸があるな。
辻元は感心した。それにスタイルも良く、綺麗な顔をしている。さぞや大学内では人気者だろう。
「突然お呼び立てして申し訳ありません」
「いえ」
「聞きたいことあります。昨夜、一八時四四分から五二分の間、どこで何をしていましたか?」
「四四分?」
随分細かいことを聞くな、とでも思っているのだろう。大塚は訝しんでいるようだ。
「多分……、『堂明駅』に居ました」
辻元は部下に目で合図した。部下は察して応接室を出ていった。
「なぜ駅に?」
「雨宿りをするためです」
「お一人ですか?」
「はい。その少し前までは人と会っていましたけど」
「それは誰ですか?」
「そんなこと言わないといけないんですか?」
「はい。とても大事なことです」
「……田中梨香子さんという方です。大学の先輩です」
「そうですか……」
「あの……、それが何か?」
「田中梨香子さんは亡くなりました。あなたと会った後、殺されたんです」
「そう……、ですか」
辻元はその反応に違和感を覚えた。
「あまり驚かれないんですね?」
「ええ」
「なぜ?」
「話してもどうせ信じてもらえませんから」
「それでも話してもらえませんか?」
突然、大塚が微笑んだ。辻元がその訳を聞く前に説明してくれた。
「正直なんですね。そこは、“信じますよ”とか嘘付けばいいのに」
「相手に本当のことを話して欲しいなら、本当のことを話せばいい。嘘を吐かれたくないなら、嘘を吐かなければいい。簡単なことです」
大塚は声を出して「フフフッ」と笑う。笑うと綺麗な顔に愛嬌がプラスされた。不覚にも辻元は“ドキッ”とした。
「あたし、解るんです」
「解る?」
「死にそうな人が解るんです」
そう言った大塚の顔は氷のように冷たく、辻元の背筋に悪寒が走った。