一章 9

文字数 1,009文字

「そんなことより、どういうこと?」
 明は相変わらず蒸し暑い『野草サークル』の部室で東雲に聞いた。
 東雲に頬の傷を「またか?」「ドジ」「間抜け」と、お決まりの台詞でからかわれた後のことだった。
「徳田は昨夜、お決まりの趣味を楽しんだ後、教授室で殺された」
 東雲も暑いのだろう。半袖Tシャツの首元をパタパタやっている。部費でエアコンを買えばいいのに、明はそう思ったが、同時にそれは無理だと解っていた。部費のほとんどは如何わしい薬や、煙草のようなものにつぎ込まれているからだ。
「その女生徒が殺したの?」
「いや、解らん。行為の後、その生徒は部屋を出た。その約一○分後、何者かが部屋に入ってきて、殺された。学長の話では、死亡推定時刻は一九時から二○時の間。その時間、徳田以外の教授は『全教館』にはいなかったらしい」
「あれは?」
「ああ、録音してある」
「っていうかやばくない?教授室からあれが見つかったら、僕たちが疑われちゃうよ」
「大丈夫だ。回収してきた」
「大丈夫じゃないよ。和さんがあの部屋に行った痕跡が残ってるかもしれないよ」
「馬鹿。部屋に行くわけないだろ」
「じゃあどうやって回収したの?」
「パソコンだよ」
「パソコン?」
「元々、あの部屋に盗聴器はしかけてないんだよ」
「え?」
「ただ、あの部屋の音声はちゃんと拾ってある」
「どうやって……」
「あの変態教授のパソコンに、エロサイトを経由してウイルスを侵入させた。そしてそのパソコンを使って録音したんだ。映像――パソコンに付いているカメラのことだが――はダメだった。角度的に窓しか映っていない。データは全部俺のパソコンに転送してある。そしてそのウイルスを使って、その痕跡は全部消してある。復元は難しいはずだ」
 明は途中から東雲が何を言っているのかよく解らなかったが、とりあえず心配はないらしい。明はパソコンといえば、ワードとエクセルくらいしか解らない。
「学長は何て?」
「学校の恥は晒したくないそうだ。そりゃそうだろうな。女子生徒にストリップさせて強姦、いや売春か?をして写真をコレクションしている変態が教授やってるんだからな」
「でも犯人がその女生徒だったら?その音声は重要な証拠になるでしょ」
「だからお前を呼んだんだ。聞いてみてくれ。俺はリアルタイムで聞いてたけど、マジでビビったぜ」
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