五章 18

文字数 549文字

「少し早過ぎたか」
 屋上にはまだ誰もいなかった。
「上杉。手筈はどうなってる?」
「制服警官を崖下に待機させています。そしてクッションを敷かせています。もし飛び降りても受け止められるはずです」
 辻元は上杉と、犯人が居直った時を想定して話し合った。そのために防刃チョッキをスーツの下に着込んできた。いざとなれば辻元と上杉が盾になるつもりだ。犯人が逃げ出すことも想定して、大学中に学生に扮した私服警官を配置した。
「どうだ?穴はあるか?」
「大丈夫です。きっと取り押さえられます」
「どうして女のお前をこの場に連れてきたか解るか?危険なのに」
「いえ……」
「お前の悲願だろう?父親を殺した犯人を捕まえられるぞ」
「主任……。知っていらしたんですか?」
「当たり前だ。だから刑事になったのだろう?志を同じくする俺に近づいたのもそのためだろう」
「はい……。すいません」
「何を謝る」
「今まで黙っていて……」
「構わないさ。俺は心強かった。同じ志を持つ者がいることがな。俺は今日、過去を清算する。お前も今日からスタートだ」
「はい!」
 上杉は必死に涙を堪えているようだった。辻元は上杉の肩を“バン”と叩いた。
「まだ泣くな。捕まえてから泣け」
「はい!」
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