遺言

文字数 1,311文字

 
奈々へ 遺言だよーん
 
前略
 
 大塚奈々様

 不真面目なタイトルでごめんなさい。僕は殺人犯でした。犠牲になった人達にどうやって詫びればよいか解りません。恐らく奈々も僕を殺したい程憎んでいることでしょう。彼は僕自身です。どれほど言い訳しても意味はありません。できれば復讐させてあげたいけど……、止めておきます。今日ある人にこう言われました。

「復讐の先にあるのは『無』だけだ」

 奈々には未来を見てほしいから、『無』にはなってほしくありません。だからこの命は法の裁きに委ねることにしました。色々調べているうちに解りました。彼は彼なりに苦しんでいた。父も母も失い、復讐するためだけに生きるようになった。徳田が死んで彼に残ったものは、その『無』です。彼は自身を『無』に返そうとするはずです。僕は辻元さんに自殺阻止を頼みました。さらにボールペンにも細工をしました。頸動脈を刺そうとしてもすぐに芯が引っ込むように――。僕の持ち物の中で、凶器になりそうなものはボールペンだけですから、彼は必ずこれを使うはずです。でも自殺の邪魔をされて彼には恨まれていることでしょう。
 僕は彼に気づいてやることすらできませんでした。僕が自分自身を見つめ、常に自分を省みていれば、彼の存在に気付けたかもしれない。それが悔やまれてなりません。
 遺族の方々は憤慨されるかもしれませんが、僕は彼に生きる意味を与えたかったのです。命があることの意味を教えたかったのです。それを知ったうえで彼の残りの人生を、罪を償うことに捧げてほしいと思ったのです。
 恐らく彼と僕は死刑になるでしょう。それ以外に罪を償う方法がないから……。でも死刑が執行されるその瞬間まで、彼と僕は罪を償い続けます。それを遺族の方々にお約束します。本当にごめんなさい。
 
 寂しいことですが、もう奈々に会うこともないでしょう。そこでお節介とは思いましたが、ある提案をしたいと思います。
 
――恋をして下さい!
 
 奈々も気が付いていたと思うけど、僕達の間に愛情はありませんでした。同じような環境で育ち、同じように記憶を失った。僕達の関係を表すのに適した言葉があるとするならば、それは『精神的な双子』でしょう。愛情はなかったけど、絆は間違いなくあった。僕は奈々と姉妹だと勝手に思っています。姉妹だからこそ奈々のこれからが心配です。
 奈々はしっかりしている様に見えても、甘えん坊で弱い子です。支える人が必要です。でも僕はもう傍にはいられません。だから僕は奈々に恋人を残すことにしました。策を練って彼と二人きりになるように仕向けました。誰のことか奈々にはもう解っていると思います。今のその気持ちに素直になって下さい。
 奈々が幸せになることを心から祈っています。身勝手でごめんなさい。僕を許す必要はありません。早く忘れて下さい。忘れることができれば奈々の未来は輝いているはずです。

                                  滝沢結衣より

                                  草々
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