三章 13
文字数 1,451文字
土橋は新幹線から在来線に乗り換え『堂明駅』で下車した。
雨が降っていた。駅前は雨宿りをしようと人が集まっている。
土橋は人混みを避けながら抜けた。
ほっと息を吐いて携帯電話を取り出した瞬間、走ってきた女子大生――と思われる――にぶつかってしまった。携帯電話を落としそうになるのを辛うじて堪えた。
女子大生に目を向けると、特に怪我はないようだった。土橋と女子大生は会釈し合って別れた。
気を取り直して梨香子に電話をかけた。数回のコールで相手は電話に出た。
『はい』
「土橋だ」
『どう?成果は』
心なしか声が沈んでいる。――何かあったのか。
「ますます解らなくなった。滝沢夫人が一○年前名古屋に越してきたことは間違いない。そして新しい戸籍を買っている。しかし、それからの消息がまるで解らない」
『成果なしか……』
「いや、そうでもない」
『何か解ったの?』
「五年前に名古屋市守山区で未解決の男性刺殺事件が起きている。その被害者の夫人と娘は事件後そちらに引っ越している。事件が起きた日は七月二五日……」
『本当なの?』
「間違いない。滝沢事件と凄く似ている。もしかしたら滝沢夫人は名古屋で再婚して、再び事件を起こしたのかもしれない」
『被害者の名前は?』
「岩槻勇、当時五○歳。バツイチだった彼は一○年前、子連れの女と再婚している」
『怪しいわね。岩槻夫人と娘の名前は解っているの?』
「ああ。現在は旧姓に戻っている」
『教えて?』
「母親が大塚富美で、娘が奈々だ」
『それは本当なの?』
梨香子は明らかに驚いていた。
「ああ、間違いない。知っている者か?」
『ええ……、残念ながら』
「今、駅に着いたんだ。会って話そう」
『ええ。今は駅の南にいるわ』
雨が激しくなってきた。土橋はバッグを傘代わりにして、小走りで南に向かった。
『土橋さん!その親子は五年前に名古屋からこちらに来たって言ったわね』
「ああ」
『もう一人、心当たりが……。ぐ……』
「どうした?」
――やばい!土橋は直感でそう思った。
『あ……あなた』
「おい!どうした!」
電話は切れてしまった。何かがあったことは間違いない。土橋は走った。
――どこだ!
駅の南と言っても範囲は広い。電話の雰囲気では外にいる感じがした。それにこの雨だ。恐らく梨香子は雨宿りしているだろう。駅の南で雨宿りできるところ。
――駐輪場か?
『堂明駅』の南にはバスターミナルがあり、その地下には駐輪場がある。そこならば雨宿りができる。
駐輪場について中を探したが、梨香子はいない。雨宿りしているカップルがいるだけだった。
「くそ!どこだ。……待てよ」
バスターミナルのさらに南、高架下に飲み屋が並ぶ場所がある。道路を挟んで向かいには、踊る方のクラブがある。確か梨香子はそこの常連だ。恐らくその近くだろう。土橋はそう予測して走った。
もう雨の音しかしない。人は誰もいない。
土橋は周りを見回した。
鼓動が急に早くなるのを感じた。目の前にトンネルがある。高架下に設けられた歩行者用のトンネルだ。引き寄せられるようにそこに近づく。
「あ……、ああ」
トンネルの入り口近くに、背中から血を流し女性がうつ伏せに倒れていた。梨香子に間違いない。土橋は梨香子を抱き起こした。力はない。首に手をやるが、やはり脈はない。
梨香子はすでに死んでいた。
雨が降っていた。駅前は雨宿りをしようと人が集まっている。
土橋は人混みを避けながら抜けた。
ほっと息を吐いて携帯電話を取り出した瞬間、走ってきた女子大生――と思われる――にぶつかってしまった。携帯電話を落としそうになるのを辛うじて堪えた。
女子大生に目を向けると、特に怪我はないようだった。土橋と女子大生は会釈し合って別れた。
気を取り直して梨香子に電話をかけた。数回のコールで相手は電話に出た。
『はい』
「土橋だ」
『どう?成果は』
心なしか声が沈んでいる。――何かあったのか。
「ますます解らなくなった。滝沢夫人が一○年前名古屋に越してきたことは間違いない。そして新しい戸籍を買っている。しかし、それからの消息がまるで解らない」
『成果なしか……』
「いや、そうでもない」
『何か解ったの?』
「五年前に名古屋市守山区で未解決の男性刺殺事件が起きている。その被害者の夫人と娘は事件後そちらに引っ越している。事件が起きた日は七月二五日……」
『本当なの?』
「間違いない。滝沢事件と凄く似ている。もしかしたら滝沢夫人は名古屋で再婚して、再び事件を起こしたのかもしれない」
『被害者の名前は?』
「岩槻勇、当時五○歳。バツイチだった彼は一○年前、子連れの女と再婚している」
『怪しいわね。岩槻夫人と娘の名前は解っているの?』
「ああ。現在は旧姓に戻っている」
『教えて?』
「母親が大塚富美で、娘が奈々だ」
『それは本当なの?』
梨香子は明らかに驚いていた。
「ああ、間違いない。知っている者か?」
『ええ……、残念ながら』
「今、駅に着いたんだ。会って話そう」
『ええ。今は駅の南にいるわ』
雨が激しくなってきた。土橋はバッグを傘代わりにして、小走りで南に向かった。
『土橋さん!その親子は五年前に名古屋からこちらに来たって言ったわね』
「ああ」
『もう一人、心当たりが……。ぐ……』
「どうした?」
――やばい!土橋は直感でそう思った。
『あ……あなた』
「おい!どうした!」
電話は切れてしまった。何かがあったことは間違いない。土橋は走った。
――どこだ!
駅の南と言っても範囲は広い。電話の雰囲気では外にいる感じがした。それにこの雨だ。恐らく梨香子は雨宿りしているだろう。駅の南で雨宿りできるところ。
――駐輪場か?
『堂明駅』の南にはバスターミナルがあり、その地下には駐輪場がある。そこならば雨宿りができる。
駐輪場について中を探したが、梨香子はいない。雨宿りしているカップルがいるだけだった。
「くそ!どこだ。……待てよ」
バスターミナルのさらに南、高架下に飲み屋が並ぶ場所がある。道路を挟んで向かいには、踊る方のクラブがある。確か梨香子はそこの常連だ。恐らくその近くだろう。土橋はそう予測して走った。
もう雨の音しかしない。人は誰もいない。
土橋は周りを見回した。
鼓動が急に早くなるのを感じた。目の前にトンネルがある。高架下に設けられた歩行者用のトンネルだ。引き寄せられるようにそこに近づく。
「あ……、ああ」
トンネルの入り口近くに、背中から血を流し女性がうつ伏せに倒れていた。梨香子に間違いない。土橋は梨香子を抱き起こした。力はない。首に手をやるが、やはり脈はない。
梨香子はすでに死んでいた。