一章 2

文字数 915文字

 『サークル館』は急勾配の坂に建っている。正門から『サークル館』に入ろうとすると、三階から入ることになる。入り口が三階にあるという変わった造りの建物だ。ミステリー・サークルの部室はその三階にある。
 二人が部室に入ると先客がいた。
「学、居たんだ」
 明は声をかけたが、学は寝袋で熟睡していてピクリともしなかった。学を踏まないように気をつけながら、奥にあるテーブルを挟んで腰掛けた。
「何から聞きたい?」
 明は挑戦的な笑みを浮かべた。「何でも答えてやるぞ」とその目は語っていた。
「そう言えば明、最初から犯人は女かもって言ってたよね。何で?」
「確信があったわけじゃないよ。でも男だったら、もっと手っ取り早い方法を選ぶんじゃないかなって思って」
「手っ取り早い?」
「例えば金持ってそうなおばさんからひったくるとか、大学内で盗むにしても教授室に忍び込むとか……」
「ひ弱な男って可能性もあるじゃない」
「もちろん。だから確信はなかったよ」
「じゃあ、どうやって犯人を特定したのよ」
「それはひたすらシンプルに足を使ったのさ」
「足?」
「被害者の女生徒と講師に話を聞いたんだ。ここ数ヶ月のうちにバドミントンの授業のことを誰かに話さなかった?ってね。後はその話をしたって人達を調べて回ったってわけ」
「シンプルね。ピンと来たとかじゃないんだね」
「超能力者じゃないんだから。でも結構大変だったんだからね」
「だからあたしも手伝うって言ったのに」
「だって奈々、バイトで忙しいって言ってたじゃん」
「そうだけど、少しくらいなら……」
 奈々がしゅんとなったので、明は話を戻した。
「とにかく!調べてたら一人怪しい人がいたんだ」
「それが美容師?」
 明は頷いた。
「どこが怪しかったの?」
「事件が起きた日は二回とも月曜日だった。その美容院は月曜日が定休日だった。さらに被害者の一人と、講師は、その美容師が担当だった」
「怪しいわね」
 奈々は顎に手を当てて思案顔になった。彼女なりに推理をしているのだろう。
「それでもう一回、その被害者と講師に話を聞くことにしたんだ」
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