四章 12
文字数 1,798文字
「あれ、めずらしいな。いないや」
明は一連の手順を踏んだが、『野草サークル』の部室の中から応答はなかった。
「まあ、いいか。うちの部室にもコピーあるし」
「コピー?」
「教授室を盗聴した音声が入っているCDですよ。土橋さんにも聞いてもらおうと思って」
三人は階段を上って三階の『ミステリー・サークル』の部室に入った。
「あ!土橋さん。足下気をつけてくださいね?」
「足下?」
土橋は下を見た。そして、地面に転がっている物体を見て驚いていた。
「うわ!」
地面には寝袋にくるまれた人間が転がっていた。
「気にしないでください。日中はずっとこうですから」
「あ、ああ。解った」
土橋は寝袋を跨いで奥の椅子に腰掛けた。奈々もその隣に座った。明は本棚からCDを取り出すと、コンポにそれをセットして再生ボタンを押した。
土橋と相田の件を早送りして、犯人が入ってくるところで止めた。
聞き終えて土橋が言った。
「何だろう。違和感があるな」
「僕もずっと感じていたんですよね」
明と土橋は二人で考え込んでしまった。奈々は彼らの言う“違和感”が何のことかよく解らなかった。しかし、不思議に思うことはあった。
「あたしなら黙っていられないな……」
「奈々、何の話?」
「この犯人は徳田に恨みがあったのよね?」
「絶対ではないけど、腹を十字に引き裂いている。恨みがなければそこまではしないんじゃないかな」
「そんなに恨めしい男なら、黙っていることはできないわ。めちゃくちゃに罵って、笑いながら殺してやるわよ」
土橋の奈々を見る目が変わった様に見えた。怖い女だとでも思ったのだろうか。すると、明が突然叫んだ。
「そうか!そうだったんだ!」
そう言った後、明はぶつぶつ言いながら“推理モード”に入ってしまった。
土橋が話しかけても明にはまるで聞こえていない。
諦めたのか、土橋は周りをキョロキョロし始めた。そして本棚に入っているアルバムに興味を持ったのか、本棚から取り出して見ている。
「何だ?この写真」
奈々は説明した。
「ああ、そこで寝ている学の趣味です。この子、このサークルをオカルトサークルだと勘違いして入部してきたの」
「確かにUFOの様な写真もあるけど……、でも……」
「何かおかしな写真でもあるんですか?」
奈々はアルバムを覗き込んだ。
「ちょ!」
そこにはカップルがキスや草むらで行為に励んでいる姿をとらえた写真が沢山あった。
「なにこれ!」
「彼はいつもどこから写真を撮っているんだ?」
「この『サークル館』の屋上です。そこで毎日、夜空を撮っています。……のはずです」
「確かにこの大学は夜になると真っ暗だ。あの日もカップルが大勢いたよ。屋上からそんなカップルを撮っているんだな」
奈々は明に目を向けるが、まだモードに入っている。
土橋はその後、本棚に『七月一九日』と書かれているアルバムを見つけた。
「あれ?これはカップルじゃないな」
そう言って土橋は奈々にアルバムを見せた。写真には男が一人で写っている。ピントは合っていないので顔までは解らないが間違いなく男だ。――誰かに似ているような……。
「もう一枚あるぞ」
もう一枚にも男が一人で写っていた。やはりピントは合っていない。
奈々が明にも写真を見せようと振り返ると、“バン!”明はテーブルを叩いた。
そして頭を抱えてしまった。慌てて奈々が近寄ると、明は小声で言っていた。
「そんな馬鹿な……。どうして、こんなことを」
明は携帯電話をかけた。相手はすぐに電話に出た様子だった。
「明です。調べて欲しいことがあります。ええ、恐らく事件は解決です。誰かこちらに寄越してくれませんか?ええ、部室にいます」
電話を切った後、今度は内線電話の受話器を取り、どこかに電話をかけた。
「崎本です。聞きたいことがあります。ええ、後で伺います」
明は電話を切った後、盗聴のCDをプラスチックのケース――元々は別の音楽CDが入っていたもの――に入れて、奈々に渡した。
「取りに来た人に渡して……」
そう言って部室を出て行った。明の顔は鬼気迫るものがあった。その背中はこう言っていた。「誰も付いてくるな」。
明は一連の手順を踏んだが、『野草サークル』の部室の中から応答はなかった。
「まあ、いいか。うちの部室にもコピーあるし」
「コピー?」
「教授室を盗聴した音声が入っているCDですよ。土橋さんにも聞いてもらおうと思って」
三人は階段を上って三階の『ミステリー・サークル』の部室に入った。
「あ!土橋さん。足下気をつけてくださいね?」
「足下?」
土橋は下を見た。そして、地面に転がっている物体を見て驚いていた。
「うわ!」
地面には寝袋にくるまれた人間が転がっていた。
「気にしないでください。日中はずっとこうですから」
「あ、ああ。解った」
土橋は寝袋を跨いで奥の椅子に腰掛けた。奈々もその隣に座った。明は本棚からCDを取り出すと、コンポにそれをセットして再生ボタンを押した。
土橋と相田の件を早送りして、犯人が入ってくるところで止めた。
聞き終えて土橋が言った。
「何だろう。違和感があるな」
「僕もずっと感じていたんですよね」
明と土橋は二人で考え込んでしまった。奈々は彼らの言う“違和感”が何のことかよく解らなかった。しかし、不思議に思うことはあった。
「あたしなら黙っていられないな……」
「奈々、何の話?」
「この犯人は徳田に恨みがあったのよね?」
「絶対ではないけど、腹を十字に引き裂いている。恨みがなければそこまではしないんじゃないかな」
「そんなに恨めしい男なら、黙っていることはできないわ。めちゃくちゃに罵って、笑いながら殺してやるわよ」
土橋の奈々を見る目が変わった様に見えた。怖い女だとでも思ったのだろうか。すると、明が突然叫んだ。
「そうか!そうだったんだ!」
そう言った後、明はぶつぶつ言いながら“推理モード”に入ってしまった。
土橋が話しかけても明にはまるで聞こえていない。
諦めたのか、土橋は周りをキョロキョロし始めた。そして本棚に入っているアルバムに興味を持ったのか、本棚から取り出して見ている。
「何だ?この写真」
奈々は説明した。
「ああ、そこで寝ている学の趣味です。この子、このサークルをオカルトサークルだと勘違いして入部してきたの」
「確かにUFOの様な写真もあるけど……、でも……」
「何かおかしな写真でもあるんですか?」
奈々はアルバムを覗き込んだ。
「ちょ!」
そこにはカップルがキスや草むらで行為に励んでいる姿をとらえた写真が沢山あった。
「なにこれ!」
「彼はいつもどこから写真を撮っているんだ?」
「この『サークル館』の屋上です。そこで毎日、夜空を撮っています。……のはずです」
「確かにこの大学は夜になると真っ暗だ。あの日もカップルが大勢いたよ。屋上からそんなカップルを撮っているんだな」
奈々は明に目を向けるが、まだモードに入っている。
土橋はその後、本棚に『七月一九日』と書かれているアルバムを見つけた。
「あれ?これはカップルじゃないな」
そう言って土橋は奈々にアルバムを見せた。写真には男が一人で写っている。ピントは合っていないので顔までは解らないが間違いなく男だ。――誰かに似ているような……。
「もう一枚あるぞ」
もう一枚にも男が一人で写っていた。やはりピントは合っていない。
奈々が明にも写真を見せようと振り返ると、“バン!”明はテーブルを叩いた。
そして頭を抱えてしまった。慌てて奈々が近寄ると、明は小声で言っていた。
「そんな馬鹿な……。どうして、こんなことを」
明は携帯電話をかけた。相手はすぐに電話に出た様子だった。
「明です。調べて欲しいことがあります。ええ、恐らく事件は解決です。誰かこちらに寄越してくれませんか?ええ、部室にいます」
電話を切った後、今度は内線電話の受話器を取り、どこかに電話をかけた。
「崎本です。聞きたいことがあります。ええ、後で伺います」
明は電話を切った後、盗聴のCDをプラスチックのケース――元々は別の音楽CDが入っていたもの――に入れて、奈々に渡した。
「取りに来た人に渡して……」
そう言って部室を出て行った。明の顔は鬼気迫るものがあった。その背中はこう言っていた。「誰も付いてくるな」。