三章 2

文字数 1,115文字

 調べ物があったので携帯電話を取り出してネットに接続した。区役所の近くに大きな図書館があることが解ったので、ネットで行き方を調べた。バスで行けるようだ。
 市営バスに乗ること約一五分、区役所に着いた。そこからは歩くことにした。その頃には顔から垂れる汗にまみれていた。臭いが気になったが、着替えは一枚しか持ってきていない。土橋は諦めることにした。
 図書館に着くと、その大きさに驚いた。堂明の図書館の三倍はありそうだ。再びネットで調べると蔵書は一六○万冊。三倍どころではない。蔵書数でいえば一○倍以上だ。土橋は訳もなく緊張しながら自動ドアを潜る。自分が田舎者になった様な気分になってしまった。
 土橋は館内に設置されている検索機を使って、名古屋の地元新聞社の縮刷版を探すと、二階にあるという結果が出た。かなり広いので探すのに手間取ったが、何とか見つけて、九年前から五年前までの縮刷版を棚から抜き出した。近くの机に腰掛けてページをめくり始めた。
 九年前から順番に七月二五日から二七日くらいまでを調べていくと、五年前に気になる記事を見つけた。
 
 
七月二六日、○○新聞朝刊
 深夜二三時、守山区内に住む岩槻勇さん(五○)が自宅で刺され死亡した。犯人は仕事から帰った勇さんを待ちかまえていたかのように玄関から押し入り、娘(一五)の目の前で犯行に及んだ模様。金目の物が盗まれていないことから強盗目的ではなく、何らかの理由で勇さんに恨みを持つ者の犯行だと思われる。娘に怪我はなかったが、ショックのあまり言葉を失っており、現在は区内の病院に入院している。母親は二階で寝ていたために被害を免れている。警察は現在目撃者がいないか周辺を捜査中。
 
七月二七日、○○新聞朝刊
 二五日に起こった岩槻勇さん殺害事件の捜査が難航している。目撃者が見つからないのだ。閑静な住宅街ということもあり、夜二○時をこえると辺りに人気がなくなってしまう。警察は聞き込み範囲を広げている。また入院している娘が落ち着きを取り戻し、話ができる状態にはなったが、娘は犯人の顔を見ていない模様。捜査の進展が望まれる。
 
 
 土橋はその後の記事を追いかけたが、捜査は全く進展していなようだった。そして二ヶ月後捜査本部は大きく縮小され、半年後数名の捜査員を残し、解体された。現在も犯人は捕まっていない。
 新聞には情報を募るために、殺害現場となった自宅の住所も掲載されていた。土橋はメモを取って図書館を出た。時計を見ると時刻は一五時前――そういえば昼飯を食べていない。
 急に腹が減ってきた。
 土橋は牛丼屋で牛丼を掻き込んで、すぐに駅に向かった。
 
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