四章 1

文字数 606文字

「梨香子が死んだ?」
 明は呆然と呟いた。東雲は「残念ながら」と言って頷いた。今朝『野草サークル』の内線電話に学長から連絡があったらしい。
「背中から一突きだったそうだ」
「そんな……」
「第一発見者は土橋らしいぜ」
「土橋ってこの土橋?」
 明は財布から土橋の名刺を取り出しながら言った。
「ああ、その土橋だ。今警察で取り調べを受けているそうだ」
「奈々、大丈夫かな?昨日から連絡ないけど……」
「連絡してみろよ」
「うん」
 明は奈々に電話をかけた。しかし、電源は入っていないようで、無機質な音声が流れるだけだった。
「まあ、大丈夫だろう。学長は梨香子のことしか言ってなかったからな。ま、お前は複雑だと思うけどな。一応、梨香子と付き合ってたんだし」
「うん……。あの梨香子が死ぬなんて……」
 明は思った。決していい思い出とは言えない付き合いだったが、明と梨香子の間に間違いなく情はあった。その梨香子はもういない。
「梨香子のためにも犯人見つけてやらないとな」
 東雲は明の肩を叩いた。明を元気付けるためによくやる行為だ。
「うん。そうだね」
「やっぱりこいつが怪しいな」
 東雲は明が持っている名刺を指差した。
 明は名刺を裏返し、そこに手書きで書かれている番号を携帯電話に打ち込んで、通話ボタンを押した。奈々と同様に無機質な音声が流れた。
「こっちもだめだ」
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