第58話

文字数 1,888文字

「そうだ。俺はお前だ。いくつもの未来の中の1人、と言うべきなのかもしれないが」
「ルーン、分かっていたのか?」
「ええ。この時間の路、私以外はルーンナー本人しか立ち入る事は不可能です」
「つまり、俺以外に存在しているという事は……俺って事だな」

「信じるのか?」
「ああ。普通の状況であれば信じられないかもしれない。でも今この状況は普通じゃない」
「確かにそうなのかもな」
「それに……」


 レシアはルーンを見る。


「こいつ……ルーンは今まで嘘を吐いた事は無い。だからこそ信じられるんだ」
「なるほど、俺と考え方は同じか。……って当たり前か」
「戦いの中でも取れなかった、そのおかしなフードを脱げ」
「良いだろう」


 ナイトメアがフードを脱ぐと、そこには間違いなくレシアの姿があった。


「……俺だな。歳は違うが間違いなく俺だ」
「ああ。お前より幾つも上だな。どうだ? 未来の自分の姿は」
「幾つかにもよるけど、まあ順当な老化だと思うよ」
「老化って言うな」

「……封印したいやつが居る、って言ったか?」
「ああ。もちろんそれが誰かは言わないが」
「……俺が知っているヤツって事か?」
「それも言えないな」

「お前がこれを俺に返せる保証はあるのか?」
「ルーンナーに言うセリフじゃ無いな」
「俺はこれが無くなると時間を遡る事が出来なくなる」
「分かっている。でもそれは大丈夫だ」

「どういう事だ?」
「お前なら分かるだろ。お前が今の時間の流れの中の何処に行ったとしても、俺はお前を探し出せる。俺が通った道だからな。だからこそルーン鉱石をお前に返す事が出来る」
「それは……まあそうか」
「仮にお前が俺の通らなかった時間の流れを進もうとも、俺は俺が知っている時間まで移動しお前に会える」


 自分自身だと理解してからは、ナイトメアに対する信頼は充分なほどあった。


「……良いだろう。絶対に返せよ」


 レシアはペンダントを外しナイトメアに手渡した。


「サンキュー。すぐに返しに来るさ」
「因みに何でナイトメアなんだ?」
「ああ……元々俺が自分で付けた名称じゃ無いからな」
「それは分かる。そんな性格じゃない」

「詳しく言うつもりも無いが、取り敢えず俺と敵対している奴らがそう呼び始めたんだ。今のレッド・アサシンと同じ様な物だ」
「つまり、そう呼ばれても仕方のない事をしているんだな」
「まあ相手にしてみたらそうなのかもな。お前もそう呼ばれる事になるんだからな」
「じゃあ俺はその時に、その名称を否定してやろう」

「それも面白いかもしれないな」
「……行くのか?」
「ああ。お前の邪魔はしないから安心してくれ」
「邪魔?」

「自分を信じろ」
「……信じているさ。いつもな」
「……そうだな」



 ナイトメアの首から光が溢れ出してナイトメアを包む。そして光と共にナイトメアは消えて行った。


「へえ……俺もいつもあんな感じに消えて行ってるのか」
「それは時間の流れから切り離された場所だからです。時間の流れの中であればあの光を感じる事は出来ません」
「そうなのか」


 他ならぬ自分の事。ナイトメアがレシアにルーン鉱石を返しに来るのは理解出来た。それはナイトメアの首に本人のルーン鉱石があった事からも分かった。


「俺も同じ様に将来、過去の自分に会いに来るんだな」
「それは貴方次第でしょう。あのレシアが言った通り、そもそも私と出会わない世界もあるのですから」
「……俺も過去に行く可能性はある、って程度の事か」
「そうですね」

「取り敢えず……今の俺は次の時間の流れで何があっても、ここには戻って来られないんだよな?」
「一定以上の純度をもつルーン鉱石を持たない限りは、そうなるでしょう」
「俺の体験している時間の流れの中では……無理だな」




※横話Hが解禁されました。とある過去の出来事を垣間見る事が出来ます。レシアはこの話を見た後、また時間の扉を開ける事になります。





 レシアは時間の扉の前に立った。もしかしたらもう失敗は出来ないのかもしれない。それとも時間の流れのどこかで本当にナイトメアがルーン鉱石を返しに来るんだろうか?


「まあ行くしか無いよな。そう言えば……次は記憶の有無ってどうなんだろうな?」
「前回の様な違和感は感じません。もうあのレシアは去りましたので」
「え、ナイトメアが違和感の原因だったのか?」
「恐らくそうでしょう。さっきも言った通りこの世界にはルーンナー本人と私以外は干渉できませんから。勿論あのレシアも態とやった訳では無いでしょうが」

「……何か色々と分かり難過ぎて混乱してるよ。まあ良いけど。つまりもう通常なんだな?」
「そう考えて貰って良いと思いますよ」
「分かった」




 レシアは時間の扉を開いた。





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登場人物紹介

【レッド】

腕利きのアサシン。

とある目的の為にアサシンとなった彼は、その手を血に染めていく。

序盤はダガーを使用し、闇属性の魔法も使用可能。

【ブルー】

レッドの相棒であるアサシン。

金が好きで基本的に冷めた性格である。

どういった経緯でアサシンになったかは不明。

ダガーを使用し、風属性と水属性の魔法も使用可能。

【バダグ】

アサシン本部の部長。

普段はラフな喋り方だが、実力はアサシンでも最強クラス。

セスタスを装着し、格闘術を得意とする。

【ナーダ】

レッドの幼馴染。

とある場所で再会する。

杖を装備しており、光属性と回復の魔法が使用可能。

【シヴァ】

ハンター本部の部長。

エルフであり、魔力が高い。

長剣を使用し、無属性の魔法を使用可能。

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