第49話

文字数 1,860文字

「レッド。アサシンに戻るつもりは無い?」
「なんだ、藪から棒に?」
「この戦いでアサシンも結構ダメージがあるのよ。バダグもチャードもバダグの側近も死んじゃったからね」
「殆どを殺したの……俺じゃないか」

「アンタだって色々私に言いたい事もあるでしょうが……」
「そうだな。でもまあ良い」
「そう?」
「ついでに、アサシンに戻る事も無い」

「レシア」
「そう……まあそうよね。アンタにとってアサシンは村の仇を見付ける手段でしかなかったんだもんね」
「そういう事だ。元々、俺はアサシンには向いていない」
「そうかしら? なかなかのアサシンっぷりだったけど。確かに個性は強かったけどね」

「バダグが村の仇だった。そして村の仇を討てた。それで俺は充分だ。理由はあれど、今までアサシンとして色々な人を殺して来た。これ以上は何も望まないさ」
「レシア……村へ帰る?」
「そうだな。取り敢えずはルーン村へ戻ろう。ブルー、俺達は村に居る。何かあれば言って来い」
「……分かったわ」




 レシアはナーダと共に故郷であるルーン村へ戻った。幸いアサシン時代の貯金もあったし、村での自給自足生活に大した問題は無いだろう。

 ブルーはアサシン本部長としてレシアやナーダへの攻撃を完全に禁止した。その情報伝達は早く、もう2人がアサシンに襲われる事は無いだろう。





「……さて、村に戻ったし。どうするか?」
「取り敢えず、村の皆の墓を作ろうよ」
「そうだな。一応はあの日に皆埋めては来たが、墓を建てる余裕は無かったもんな」
「どこに埋めたの?」
「採掘場の近くの広場だ。細かい場所は忘れたが」


 言っている内容は穏やかでは無いかもしれないが、今の生活は穏やかだ。こうやってゆっくりと生活出来て行けばそれでも良いのかもしれない。





 その時、不思議な事が起こった。



 レシアの首に下がっていた紅い宝石が眩く光り輝く。フッと身体が楽になり、レシアは光に包まれていった。


「これは……思い出した。時間の路への……でも何で? これ以上ない流れのはずなのに?」


 光がよりいっそう強くなり、世界を包み込む。光が消え去った後は最早見慣れた光景が映っていた。



「時間の路。また戻って来てしまったのか」
「ここは時間の路。レシア、貴方の思う未来にはなりましたか?」
「ルーン……俺はどうして此処に戻って来てしまったんだ? 村の仇も取ったし、ナーダも無事だ。ブルーがアサシン本部長になってアサシンに狙われる危険も去った。それに俺が死んだりもしていないのに?」
「それは私には分かりません」
「これ以上ないエンディングだと思うんだけど……」

「もしかすると、ここが今回のルーンナーとしての力を及ぼせる限界なのかもしれません」
「どういう事だ?」
「ルーンナーは時間を遡り、出来事を変える事が出来ます。そして今回の場合、河川敷からこの村へ戻るまでの間に貴方の心が定めた変化させるべき出来事が並んでいるのです」
「ちょっと分からないんだが……」

「この間で起こる全ての出来事、そしてそれらの結末や未来。それらの中で貴方が出来事を変化させるしか無いのです」
「何かよく分からないが、そんな制限なんてあったのか?」
「時間を操れると言っても神になれる訳ではありません。今までのルーンナー達もどこかで妥協して来ています。そして貴方も殆ど全ての道を通って来たはずです。この中で1つだけの未来を決定しなくてはならない」
「決定?」

「どう進んでもある地点に辿り着くとこの時間の路へ戻る様になっています。この地点の事を時間の終(ときのつい)と呼びます」
「時間の終……」
「貴方はルーンナーとして、何回もこの時間の路へ戻ってきました。それはある一定の時間の流れとフィックスした証でもあります。時間の流れは他の可能性もあるでしょう」
「他の可能性って?」

「例えば、河川敷での戦闘で貴方が死んでしまう可能性もある。アサシンの依頼を拒否して幼馴染に出会わない可能性もある。時間の終までの中であれば可能性は無限大なのです」
「他にも出来る事はあったかもしれないって事か」
「もちろん、今まで通った時間の流れで1番納得できる物を選ぶ事も出来ます。そして今はもうその段階に来ていると考えても良いでしょう」
「……今までの中だったら、やっぱり今回の流れが1番だと思っている」

「そうかもしれませんね。まあ判断する材料はまだあると思いますよ」
「材料だって? そんなの……あ」
「分かりましたか? 貴方はルーンナー。未来を垣間見る事も可能なのです」
「……横話の間で今の時間の流れの未来を、俺はまだ見ていない」





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登場人物紹介

【レッド】

腕利きのアサシン。

とある目的の為にアサシンとなった彼は、その手を血に染めていく。

序盤はダガーを使用し、闇属性の魔法も使用可能。

【ブルー】

レッドの相棒であるアサシン。

金が好きで基本的に冷めた性格である。

どういった経緯でアサシンになったかは不明。

ダガーを使用し、風属性と水属性の魔法も使用可能。

【バダグ】

アサシン本部の部長。

普段はラフな喋り方だが、実力はアサシンでも最強クラス。

セスタスを装着し、格闘術を得意とする。

【ナーダ】

レッドの幼馴染。

とある場所で再会する。

杖を装備しており、光属性と回復の魔法が使用可能。

【シヴァ】

ハンター本部の部長。

エルフであり、魔力が高い。

長剣を使用し、無属性の魔法を使用可能。

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