第2話
文字数 2,073文字
ブルーがスラム街に着いた頃には、もうスウァムのロックは完了していた。倒れているターゲット。一目で死んでいるのが分かる。その傍らでは目を塞ぎ手を合わせている相棒。いつもこれをやっている。
「やっぱりこっちだったわね」
「ああ」
「いつも気になってるんだけど、何やってるのそれ?」
「分からないか? 死者の冥福を祈ってるんだ」
……この男はまた意味の分からない事を言う。
「冥福? 殺した人間が冥福を祈るって言うの?」
「仕事の間は何も考えないんだ。せめて終わった後位は考えてやらないと」
「現場に長居するのはどうかと思うわよ? 貴方、こんなんでこの仕事やっていけるの?」
「今までやって来れたじゃないか」
本当に、ああ言えばこう言う。
「はいはい、もうお祈りは済んだでしょ? いい加減行くわよ」
「そうだな。そろそろ帰るか」
「金の受け渡しは明日、8:00にアサシン本部で」
「了解」
ブルーは帰ってしまった。俺も帰ろう。
あの人にも家族が居たんだろうな。
残された者の痛みや苦しみを知っているのに。理解出来るのに。
俺はこの仕事を辞める事が出来ない。
……いや、他の方法を知らないだけなんだ。
家に着いた。サッとシャワーを浴びて軽く食事を摂る。ブルーと言い合いしたせいか胸がザワつく。この感じだとあの日の夢を見そうだな。
アサシンという仕事は好きでやっている訳じゃ無い。当たり前だろう? でも俺の目的の為には、この方法が1番だと思いここまで来た。そのせいかどうかは分からないが、仕事に違和感を覚えたり深く考えたりした日には決まって同じ夢を見てしまう。
夢って言うのは記憶の残骸だと聞いた事がある。……だとするならば、俺の周りは残骸だらけなんだろうな。
「……ここは何処だ?」
気付くと村から山へ向かう道の途中に居た。だいたい夕方前だろうか?
「あ、そうか。今から狩りに向かうんだったな」
腰にはいつもの短剣。背中にはいつもの弓矢のセット。猪でも取れれば2番良いんだけど、今日は居るかな?
刹那、村の方から轟音が聞こえる。
「えっ?」
煙があがっているのが見える。
その瞬間に俺は理解した。
だいたいいつもここで気付く。
これはあの日の夢だと。
全てを奪い去ってしまった悪夢だと。
村へ向かって走り出す。夢特有の現象だろうか? 勢いは出ずに、まるでスローモーションの様にゆっくり進んでいく。でも気付くと場面は村の入口だった。燃え盛る炎と立ち上る煙であまり見えない。
急いで家に行く。
「くっ、誰も居ない。何処かに避難したのか?」
焦りながらも家を出る。そして広場の前で父親を発見する。
「父さん!? 大丈夫か?」
「おお……レシ……ア……」
父親は全身に傷を負っており最早、虫の息の様だ。
「何が……何があったんだ!?」
「ア……アサシンが……攻めてきて……」
「アサシンだって?」
「村の……たか……ら……」
「父さん?」
そのまま父親は動かなくなった。
「父さん! 父さん!」
もう何度も見た夢だ。ノンフィクションの俺の過去だ。この夢の中で何度も村は滅び、父は死んでいった。一切を違えぬ全く同じ悪夢。
そして何度も叫ぶ。
「うわあああああっ!」
洗練された役者の様に、俺は同じ事を呟く。
「許さない……許さないぞ! アサシン!」
どれだけ睡眠時間が違えど、同じ始まり方で同じ終わり方をする。
「はぁ……目覚ましにも使えないな」
目が覚めてボーッとした状態でポツリと呟いた。現実に戻ってしまえば暢気なものだ。目覚ましが鳴る前に起きてしまったが、寝直す気にもなれずに起き上がる。仕方がない、シャワーでも浴びるか。
「遅かったじゃない」
「後1分ある。遅刻した訳じゃ無い」
「はいはい。行くわよ」
アサシン本部でブルーと合流し、ドアをノックして中に入る。
「あ、2人ともおはよう」
「おはよう、バダグ」
「うっす」
バダグと呼ばれた男はニコニコしながら2人を迎えた。
「いやぁ、昨夜はお疲れ様。ちゃんとロック出来て一安心だよ。アサシン本部長として鼻が高いね」
「そうか」
「賞金は?」
「冷たいなぁ……はい」
バダグは金の入った麻袋を2つ机の上に置く。
「全部で30,000Gだ。いつもの通り折半で良いんだろ?」
「ああ、じゃあな」
「じゃあね」
「だから冷たいって。いやいや、今日は依頼があるんだ」
「あら、連日依頼があるなんて」
「珍しいじゃないか」
普通、殺しなんて依頼が毎日来るなんて事は無い。昨夜の仕事と関係でもあるのか?
「昨夜のよりか安い仕事になっちゃうんだけどね」
「どんな感じ?」
「ハンターの魔法使いを殺して欲しいんだってさ」
「怨みか何かか?」
「そうみたいだね。今日の夕方になるんだけど?」
「俺は構わない」
「私も良いわよ」
「決まりだね」
パチンと指を鳴らすバダグ。格好良く……は無い。
バダグから詳しい内容を聞く。なるほど、護衛付きではあるが簡単そうな依頼だ。
「レッド、時間までどうするの?」
「家で寝るわ」
「分かったわ。じゃあ17:30に現場の河川敷で」
「了解」
さて、商店で回復薬とか食べ物とかを買い足してから寝るか。
「やっぱりこっちだったわね」
「ああ」
「いつも気になってるんだけど、何やってるのそれ?」
「分からないか? 死者の冥福を祈ってるんだ」
……この男はまた意味の分からない事を言う。
「冥福? 殺した人間が冥福を祈るって言うの?」
「仕事の間は何も考えないんだ。せめて終わった後位は考えてやらないと」
「現場に長居するのはどうかと思うわよ? 貴方、こんなんでこの仕事やっていけるの?」
「今までやって来れたじゃないか」
本当に、ああ言えばこう言う。
「はいはい、もうお祈りは済んだでしょ? いい加減行くわよ」
「そうだな。そろそろ帰るか」
「金の受け渡しは明日、8:00にアサシン本部で」
「了解」
ブルーは帰ってしまった。俺も帰ろう。
あの人にも家族が居たんだろうな。
残された者の痛みや苦しみを知っているのに。理解出来るのに。
俺はこの仕事を辞める事が出来ない。
……いや、他の方法を知らないだけなんだ。
家に着いた。サッとシャワーを浴びて軽く食事を摂る。ブルーと言い合いしたせいか胸がザワつく。この感じだとあの日の夢を見そうだな。
アサシンという仕事は好きでやっている訳じゃ無い。当たり前だろう? でも俺の目的の為には、この方法が1番だと思いここまで来た。そのせいかどうかは分からないが、仕事に違和感を覚えたり深く考えたりした日には決まって同じ夢を見てしまう。
夢って言うのは記憶の残骸だと聞いた事がある。……だとするならば、俺の周りは残骸だらけなんだろうな。
「……ここは何処だ?」
気付くと村から山へ向かう道の途中に居た。だいたい夕方前だろうか?
「あ、そうか。今から狩りに向かうんだったな」
腰にはいつもの短剣。背中にはいつもの弓矢のセット。猪でも取れれば2番良いんだけど、今日は居るかな?
刹那、村の方から轟音が聞こえる。
「えっ?」
煙があがっているのが見える。
その瞬間に俺は理解した。
だいたいいつもここで気付く。
これはあの日の夢だと。
全てを奪い去ってしまった悪夢だと。
村へ向かって走り出す。夢特有の現象だろうか? 勢いは出ずに、まるでスローモーションの様にゆっくり進んでいく。でも気付くと場面は村の入口だった。燃え盛る炎と立ち上る煙であまり見えない。
急いで家に行く。
「くっ、誰も居ない。何処かに避難したのか?」
焦りながらも家を出る。そして広場の前で父親を発見する。
「父さん!? 大丈夫か?」
「おお……レシ……ア……」
父親は全身に傷を負っており最早、虫の息の様だ。
「何が……何があったんだ!?」
「ア……アサシンが……攻めてきて……」
「アサシンだって?」
「村の……たか……ら……」
「父さん?」
そのまま父親は動かなくなった。
「父さん! 父さん!」
もう何度も見た夢だ。ノンフィクションの俺の過去だ。この夢の中で何度も村は滅び、父は死んでいった。一切を違えぬ全く同じ悪夢。
そして何度も叫ぶ。
「うわあああああっ!」
洗練された役者の様に、俺は同じ事を呟く。
「許さない……許さないぞ! アサシン!」
どれだけ睡眠時間が違えど、同じ始まり方で同じ終わり方をする。
「はぁ……目覚ましにも使えないな」
目が覚めてボーッとした状態でポツリと呟いた。現実に戻ってしまえば暢気なものだ。目覚ましが鳴る前に起きてしまったが、寝直す気にもなれずに起き上がる。仕方がない、シャワーでも浴びるか。
「遅かったじゃない」
「後1分ある。遅刻した訳じゃ無い」
「はいはい。行くわよ」
アサシン本部でブルーと合流し、ドアをノックして中に入る。
「あ、2人ともおはよう」
「おはよう、バダグ」
「うっす」
バダグと呼ばれた男はニコニコしながら2人を迎えた。
「いやぁ、昨夜はお疲れ様。ちゃんとロック出来て一安心だよ。アサシン本部長として鼻が高いね」
「そうか」
「賞金は?」
「冷たいなぁ……はい」
バダグは金の入った麻袋を2つ机の上に置く。
「全部で30,000Gだ。いつもの通り折半で良いんだろ?」
「ああ、じゃあな」
「じゃあね」
「だから冷たいって。いやいや、今日は依頼があるんだ」
「あら、連日依頼があるなんて」
「珍しいじゃないか」
普通、殺しなんて依頼が毎日来るなんて事は無い。昨夜の仕事と関係でもあるのか?
「昨夜のよりか安い仕事になっちゃうんだけどね」
「どんな感じ?」
「ハンターの魔法使いを殺して欲しいんだってさ」
「怨みか何かか?」
「そうみたいだね。今日の夕方になるんだけど?」
「俺は構わない」
「私も良いわよ」
「決まりだね」
パチンと指を鳴らすバダグ。格好良く……は無い。
バダグから詳しい内容を聞く。なるほど、護衛付きではあるが簡単そうな依頼だ。
「レッド、時間までどうするの?」
「家で寝るわ」
「分かったわ。じゃあ17:30に現場の河川敷で」
「了解」
さて、商店で回復薬とか食べ物とかを買い足してから寝るか。