横話H 秘宝
文字数 3,673文字
※この横話Hは「58話」時点の状態でのお話です。58話まで読んでいない方は、先にそちらまで本編を読んで頂く事を強くお勧めします。
横話H
秘宝
バダグは予定の時間を少し過ぎた状態で村へ辿り着いた。村の入り口にはブルーが居る。
「他の者はもう作戦を開始したのか?」
「アンタは重役出勤で良いわね」
「仕方が無いだろう。急な会議があったんだから。作戦の内容はニサラレスも承知しているし、アイツが居れば作戦は成せるだろう。俺はアイツのお守みたいな物だ」
「しかしよくこんな作戦をしようと思ったわね」
「何? そんなにおかしい作戦だったか?」
「アンタにしては珍しい内容よ」
「ふむ、そうかな」
今回の作戦はこのルーン村と提携し、村の特産物である質の良いルーン鉱石を継続的に提供して貰う事。正直そんなに難しい案件ではない。村のルーン鉱石の卸先を少し分けて貰うだけの事だった。ルーン鉱石に興味を持っていたニサラレスが今回の案件に手を挙げた。
ニサラレスは先代のアサシン本部長であるブラックの息子であり、バダグの親友でもあった。アサシンとしてはいままで碌に活動もしておらず、実績は無かったが、今回の簡単な案件で実績を1つ付けようと言うブラックからの依頼でもあった。
正直、今回の商談を円滑に進められる様に事前に手回しは済んでいた。この前にも村へ赴き、村長とも話をしていた。だから今回の提携はほぼほぼ確実なもの。言わば出来レースの様な物だった。
「まあ良いだろう。俺達も行こうか」
「そうね。もう村人の駆逐も始まっているわ」
「駆逐…? え、どういう事だ!?」
「え、それが今回の作戦じゃないの?」
「そんな訳があるか。俺がそんな事をすると思っているのか?」
「だから言ったじゃない。アンタにしては珍しいって」
「誰が駆逐なんて……」
「ニサラレス様よ」
そうなのだろう。バダグが居ない状態で勝手に指揮を執るとするならばニサラレスの他に居ない。
「こんな事は止めさせなければ…ブルーは此処を見張るんだ。この件が外に漏れると良くない」
「……分かったわ」
村に入ると、そこは既に悲惨な状態だった。そこら中に村人が倒れている。皆すでに事切れている様だ。村人の反撃にあったのかアサシンも倒れている。
「これは……酷いな。……ん? 村の東側から音がする」
村の東側では生き残った村人たちが集まっていた。元々そんなに人数の多い村では無い。残っている人数は多くなかった。
「村長、アイツが来ます!」
「そうか……こうなった以上、戦うしかあるまい。ナーダ」
「はい、お父さん」
「お前はこの地下食糧庫に隠れるのだ」
「え、でもそれなら皆で……」
「食糧庫はそんなに広くありません。それに外側から物を被せて隠蔽しないとすぐに気付かれてしまいますよ」
「でも……」
「ナーダ、もう時間が無い。お前だけでも生き残るのだ」
村長はナーダを無理やり地下の食糧庫に押し込めた。魔法で一定時間ドアを開けられない様にし、藁を被せる。
「ここは教会の裏手で、他には何もない。見つかる事は無いだろう」
「奴が来ました!」
「……来たか」
バダグが村の東側に到着した時にはニサラレスがそこに残っていた村人を斬り殺し終わっていた。その中には村長の姿もあった。
「ニサラレス! 何をやっているんだ!」
「バダグか。思っていた通り、ルーンの原石は魔力に満ち溢れている。ちょっとの鉱石を組み込んだだけで、こんなにも力を与えてくれる」
「組み込むだと? いや、それより何でこんな事を!」
「はははっ、襲えば無料でルーンが手に入る。良い事じゃ無いか」
ルーン鉱石の魔力どうこうに関しては、確かにニサラレスは以前から言っていた。しかしこんな暴挙に出るなんて……
「くくく……他にもあるはずだ」
「ニサラレス、待て!」
ニサラレスは凄い速さで走って行ってしまった。バダグも後を追う。
村の中心部……最初に村に入った時に来る場所に来た。誰も見当たらなかったが、いきなり村長の家の壁が弾き飛んだ。そのからニサラレスが出て来る。
「ニサラレス!」
「くくく……見ろよバダグ。村長のヤツ、家にこんな大きいルーン鉱石を隠してやがった。いや、飾ってあったのかな? どっちでも良いなぁ!」
「う……ニサラレス、どうしたんだ。雰囲気がだいぶ変わってしまった……」
「採掘場があるんだろ? どこだ?」
ニサラレスがまた走り出し、今度は村の西側に向かって行った。
バダグが村の西側へ着くと、既に数名の村人が倒れていた。そしてその広場の中心に半分魔物に変化してしまったニサラレスが居た。
「ニ、ニサラレス? お前……」
「おかしいなぁ、ここらにあるはずなんだけど」
「何なんだ、その姿は……」
「ばだぐ、おまえもてつだえよ」
「こんな……こんな化け物みたいな姿になってしまうなんて」
「ばけものだと? ばだぐ、おまえ……ころしてやる!」
「……く、せめてここで止めを刺してやるのが親友としての俺の務めか……!」
ニサラレスはバダグに殴り掛かって来た。ガードするが凄い力で押される。
「なんて力だ。これがルーンの魔力だと言うのか?」
「ぐおあああ!」
「しかし攻撃が単調になっているぞ!」
バダグは次の攻撃をかわしてニサラレスの腹部を貫いた。身体のど真ん中に穴の開いたニサラレスは倒れた。
「く……こんな事になるなんて。確かにニサラレスは以前からルーン鉱石に興味をもってはいたが、こんな暴挙に出るなんて!」
「う、ぐぐ……」
「!? 馬鹿な、確かに息の根を止めたハズなのに」
見ると、腹部の傷が塞がり始めていた。
「何て生命力なんだ。これもルーン鉱石の力か?」
バダグはニサラレスの傍らに落ちた宝石の付いた機械の板を拾う。これは魔力を増強させる宝石をニサラレスが改造して機械に組み込んだ物だ。以前にニサラレスに見せびらかされた覚えがあった。これにルーン鉱石を組み込んだのだろう。
次の瞬間、何者かの声が聞こえた。
「ふふふ、面白い」
「誰だっ!?」
「俺はティアマット……邪竜ティアマットだ」
「ティアマット?」
「奇妙な魔力を感じて見てみたら、なかなか面白い事をしている。この素材も悪くないな」
「何を言っているんだ? 素材……ニサラレスの事か?」
「よし、お前にはこの人間崩れを保護して貰おうか。魔物のエネルギーを時間を掛けて吸収し、立派なキメラに仕立ててやろう」
「よく分からないが、そんな事を了解するとでも思っているのか?」
「抵抗は無駄だ」
「何っ!?」
どこからか魔力の塊が現れてバダグに撃ち込まれた。
「ぐ……!?」
「今、俺の魔力を注入した。これでお前は俺と仮契約を果たしたと同位だ。この人間崩れを保護し、魔物のエネルギーを供給するやり方はまた教えよう。お前はコイツを連れ帰るのだ。そうだな……こいつの持っているその大きい魔力の塊を触媒にするか」
「ルーン鉱石をか?」
「この石からあまり離れすぎるな。そうなれば、お前の魔力が届きにくくなってしまいこいつを護る力が綻んでしまうからな」
「ふふふ。随分と暇をしていたのだ。私の暇潰しを簡単に崩してくれるなよ」
「バダグ、此処に居たの!? 遠くから何者かがこっちに向かって来るわ!」
「…………そうか。取り敢えずこの村はもう壊滅してしまっている。証拠を残さない様に村を焼き払え」
「え……それで良いの?」
「構わん。仕方あるまいに」
「それでその……ニサラレス様は?」
「取り敢えずは連れて帰る」
「分かったわ。後で詳しい事を聞かせて貰うわよ」
「ああ」
村全体に火が放たれ、バダグ・ニサラレス・ブルーはテレポートで村から去った。
少しして、村の西側の広場入り口に倒れていた男が目を覚ます。最初ニサラレスが攻めてきた時に広場へ隠れた。その後、様子を見ようと入り口まで来た所で入って来たニサラレスに弾き飛ばされてしまい意識を失った。その際に人間であるニサラレスに、何故か生えていた角の様な物に身体を斬り裂かれていた。
男は息も絶え絶え、村の中心部へ這って行く。その頃に村の裏の出入り口から男が入って来ていた。暫くの後、這っていた男と村へ入って来た男が出会う。
「父さん!? 大丈夫か!」
「おお……レシ……ア……」
「何が……何があったんだ!?」
「ア……アサシンが……攻めてきて……」
「アサシンだって?」
バダグはあのティアマットの魔力を注入された時から、異世界に隔離されたニサラレスの為に魔物を召喚して送るという事を続けていた。割と意思も行動も自由は利く。だが、ティアマットに魔力を注入された影響でニサラレスに直接攻撃したりする事は出来なくなっていた。
最初の方は嫌気もあった。違和感もあった。しかし年月が経つとともに深くは考えない様になっていった。ニサラレスの関係以外は普段と全く変わらない生活だった。気付かぬレベルで少しずつ自身の身体を蝕みながら。
横話の間が閉じる。
「……そうか。これでハッキリしたな。ダーク・アサシンの正体。村の仇。バダグの行った事。バダグがダーク・アサシンを庇う理由」
レシアは拳を握る。
「決着を着けてやる!」
横話H
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バダグは予定の時間を少し過ぎた状態で村へ辿り着いた。村の入り口にはブルーが居る。
「他の者はもう作戦を開始したのか?」
「アンタは重役出勤で良いわね」
「仕方が無いだろう。急な会議があったんだから。作戦の内容はニサラレスも承知しているし、アイツが居れば作戦は成せるだろう。俺はアイツのお守みたいな物だ」
「しかしよくこんな作戦をしようと思ったわね」
「何? そんなにおかしい作戦だったか?」
「アンタにしては珍しい内容よ」
「ふむ、そうかな」
今回の作戦はこのルーン村と提携し、村の特産物である質の良いルーン鉱石を継続的に提供して貰う事。正直そんなに難しい案件ではない。村のルーン鉱石の卸先を少し分けて貰うだけの事だった。ルーン鉱石に興味を持っていたニサラレスが今回の案件に手を挙げた。
ニサラレスは先代のアサシン本部長であるブラックの息子であり、バダグの親友でもあった。アサシンとしてはいままで碌に活動もしておらず、実績は無かったが、今回の簡単な案件で実績を1つ付けようと言うブラックからの依頼でもあった。
正直、今回の商談を円滑に進められる様に事前に手回しは済んでいた。この前にも村へ赴き、村長とも話をしていた。だから今回の提携はほぼほぼ確実なもの。言わば出来レースの様な物だった。
「まあ良いだろう。俺達も行こうか」
「そうね。もう村人の駆逐も始まっているわ」
「駆逐…? え、どういう事だ!?」
「え、それが今回の作戦じゃないの?」
「そんな訳があるか。俺がそんな事をすると思っているのか?」
「だから言ったじゃない。アンタにしては珍しいって」
「誰が駆逐なんて……」
「ニサラレス様よ」
そうなのだろう。バダグが居ない状態で勝手に指揮を執るとするならばニサラレスの他に居ない。
「こんな事は止めさせなければ…ブルーは此処を見張るんだ。この件が外に漏れると良くない」
「……分かったわ」
村に入ると、そこは既に悲惨な状態だった。そこら中に村人が倒れている。皆すでに事切れている様だ。村人の反撃にあったのかアサシンも倒れている。
「これは……酷いな。……ん? 村の東側から音がする」
村の東側では生き残った村人たちが集まっていた。元々そんなに人数の多い村では無い。残っている人数は多くなかった。
「村長、アイツが来ます!」
「そうか……こうなった以上、戦うしかあるまい。ナーダ」
「はい、お父さん」
「お前はこの地下食糧庫に隠れるのだ」
「え、でもそれなら皆で……」
「食糧庫はそんなに広くありません。それに外側から物を被せて隠蔽しないとすぐに気付かれてしまいますよ」
「でも……」
「ナーダ、もう時間が無い。お前だけでも生き残るのだ」
村長はナーダを無理やり地下の食糧庫に押し込めた。魔法で一定時間ドアを開けられない様にし、藁を被せる。
「ここは教会の裏手で、他には何もない。見つかる事は無いだろう」
「奴が来ました!」
「……来たか」
バダグが村の東側に到着した時にはニサラレスがそこに残っていた村人を斬り殺し終わっていた。その中には村長の姿もあった。
「ニサラレス! 何をやっているんだ!」
「バダグか。思っていた通り、ルーンの原石は魔力に満ち溢れている。ちょっとの鉱石を組み込んだだけで、こんなにも力を与えてくれる」
「組み込むだと? いや、それより何でこんな事を!」
「はははっ、襲えば無料でルーンが手に入る。良い事じゃ無いか」
ルーン鉱石の魔力どうこうに関しては、確かにニサラレスは以前から言っていた。しかしこんな暴挙に出るなんて……
「くくく……他にもあるはずだ」
「ニサラレス、待て!」
ニサラレスは凄い速さで走って行ってしまった。バダグも後を追う。
村の中心部……最初に村に入った時に来る場所に来た。誰も見当たらなかったが、いきなり村長の家の壁が弾き飛んだ。そのからニサラレスが出て来る。
「ニサラレス!」
「くくく……見ろよバダグ。村長のヤツ、家にこんな大きいルーン鉱石を隠してやがった。いや、飾ってあったのかな? どっちでも良いなぁ!」
「う……ニサラレス、どうしたんだ。雰囲気がだいぶ変わってしまった……」
「採掘場があるんだろ? どこだ?」
ニサラレスがまた走り出し、今度は村の西側に向かって行った。
バダグが村の西側へ着くと、既に数名の村人が倒れていた。そしてその広場の中心に半分魔物に変化してしまったニサラレスが居た。
「ニ、ニサラレス? お前……」
「おかしいなぁ、ここらにあるはずなんだけど」
「何なんだ、その姿は……」
「ばだぐ、おまえもてつだえよ」
「こんな……こんな化け物みたいな姿になってしまうなんて」
「ばけものだと? ばだぐ、おまえ……ころしてやる!」
「……く、せめてここで止めを刺してやるのが親友としての俺の務めか……!」
ニサラレスはバダグに殴り掛かって来た。ガードするが凄い力で押される。
「なんて力だ。これがルーンの魔力だと言うのか?」
「ぐおあああ!」
「しかし攻撃が単調になっているぞ!」
バダグは次の攻撃をかわしてニサラレスの腹部を貫いた。身体のど真ん中に穴の開いたニサラレスは倒れた。
「く……こんな事になるなんて。確かにニサラレスは以前からルーン鉱石に興味をもってはいたが、こんな暴挙に出るなんて!」
「う、ぐぐ……」
「!? 馬鹿な、確かに息の根を止めたハズなのに」
見ると、腹部の傷が塞がり始めていた。
「何て生命力なんだ。これもルーン鉱石の力か?」
バダグはニサラレスの傍らに落ちた宝石の付いた機械の板を拾う。これは魔力を増強させる宝石をニサラレスが改造して機械に組み込んだ物だ。以前にニサラレスに見せびらかされた覚えがあった。これにルーン鉱石を組み込んだのだろう。
次の瞬間、何者かの声が聞こえた。
「ふふふ、面白い」
「誰だっ!?」
「俺はティアマット……邪竜ティアマットだ」
「ティアマット?」
「奇妙な魔力を感じて見てみたら、なかなか面白い事をしている。この素材も悪くないな」
「何を言っているんだ? 素材……ニサラレスの事か?」
「よし、お前にはこの人間崩れを保護して貰おうか。魔物のエネルギーを時間を掛けて吸収し、立派なキメラに仕立ててやろう」
「よく分からないが、そんな事を了解するとでも思っているのか?」
「抵抗は無駄だ」
「何っ!?」
どこからか魔力の塊が現れてバダグに撃ち込まれた。
「ぐ……!?」
「今、俺の魔力を注入した。これでお前は俺と仮契約を果たしたと同位だ。この人間崩れを保護し、魔物のエネルギーを供給するやり方はまた教えよう。お前はコイツを連れ帰るのだ。そうだな……こいつの持っているその大きい魔力の塊を触媒にするか」
「ルーン鉱石をか?」
「この石からあまり離れすぎるな。そうなれば、お前の魔力が届きにくくなってしまいこいつを護る力が綻んでしまうからな」
「ふふふ。随分と暇をしていたのだ。私の暇潰しを簡単に崩してくれるなよ」
「バダグ、此処に居たの!? 遠くから何者かがこっちに向かって来るわ!」
「…………そうか。取り敢えずこの村はもう壊滅してしまっている。証拠を残さない様に村を焼き払え」
「え……それで良いの?」
「構わん。仕方あるまいに」
「それでその……ニサラレス様は?」
「取り敢えずは連れて帰る」
「分かったわ。後で詳しい事を聞かせて貰うわよ」
「ああ」
村全体に火が放たれ、バダグ・ニサラレス・ブルーはテレポートで村から去った。
少しして、村の西側の広場入り口に倒れていた男が目を覚ます。最初ニサラレスが攻めてきた時に広場へ隠れた。その後、様子を見ようと入り口まで来た所で入って来たニサラレスに弾き飛ばされてしまい意識を失った。その際に人間であるニサラレスに、何故か生えていた角の様な物に身体を斬り裂かれていた。
男は息も絶え絶え、村の中心部へ這って行く。その頃に村の裏の出入り口から男が入って来ていた。暫くの後、這っていた男と村へ入って来た男が出会う。
「父さん!? 大丈夫か!」
「おお……レシ……ア……」
「何が……何があったんだ!?」
「ア……アサシンが……攻めてきて……」
「アサシンだって?」
バダグはあのティアマットの魔力を注入された時から、異世界に隔離されたニサラレスの為に魔物を召喚して送るという事を続けていた。割と意思も行動も自由は利く。だが、ティアマットに魔力を注入された影響でニサラレスに直接攻撃したりする事は出来なくなっていた。
最初の方は嫌気もあった。違和感もあった。しかし年月が経つとともに深くは考えない様になっていった。ニサラレスの関係以外は普段と全く変わらない生活だった。気付かぬレベルで少しずつ自身の身体を蝕みながら。
横話の間が閉じる。
「……そうか。これでハッキリしたな。ダーク・アサシンの正体。村の仇。バダグの行った事。バダグがダーク・アサシンを庇う理由」
レシアは拳を握る。
「決着を着けてやる!」