第16話 歩夢

文字数 979文字

 中町荘へ着いた歩夢にまた酷なことが待っていた。
 半壊だった建物だが、このまま住み続けることが出来なくなったのだ。もしこの後また地震があると崩れるかもしれず危険なので、速やかに出て欲しいと言われた。新たな住居が見つかるまで居ることも出来ない。歩夢は途方に暮れた。隣の人の話では、震災で家を失った人たちが多いので、新たな住居、空いているアパートなどは無いということだ。その隣の人は友人の家へ世話になるそうだ。
 歩夢は、住込みの仕事を探す方がいいだろうと考えた。復興のための作業員が沢山来ているとのことなので、住込みのできる建設会社などあるのではないか。
 翌日、ハローワークに行った。
 そんなに都合よくいかない。住込みの仕事は無かった。求人そのものが少ない。
 建設現場で直接訊いてみようとハローワークを出て、自転車を走らせた。とある工事現場で休憩している作業員に話しかけてみた。その人は秋田から仕事にきたが、避難所に寝泊まりしているとのこと。重機のオペレーターやダンプトラックの運転手も皆そのようにしていることだし、仮設住宅もまだ不十分なのに住む場所なんてないぞ、と言われた。
 えー、そうなんだ。復興の作業する人たちも不自由な状況に身を置いて仕事をしているんだ。でも、賃金を得る仕事として自ら入るのと、避難所に追い込まれるのとは違う。耐えられるだろうか、体育館での生活。気持ちが沈む。別の現場も見てみようと自転車を向ける。
 海側へ走るほどに被害状況が酷くなってくる。何軒もの家で瓦礫など撤去をしている。泥に浸かった家から壊れた家具を運んでいる人たちもいる。彼らはボランティアだ。進むほどに、何組、何十人と増えてくる。ボランティアをしている人たちのことは知っていたが、これほどまで多くの人が活動しているとは思っていなかった。それらを横に見ながら走ると、一角で缶ジュースなどを飲みながら一息ついているグループがいた。六人、女性もいる。なんとなく興味を持ったので、自転車を引いてゆっくり脇を通ると、会話の一部が聞こえてきた。このボランティアに来た動機を語っているようだ。
「僕の家は幸い軽い被害で済んだ。室内を片付けたら住めるようになったので、他の人の役にたちたくて……」
「僕は職場が流されて仕事を失った。何かしないとやっていられなくて……」
 歩夢は小さな衝撃を受けた。
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