第32話 課長会議

文字数 1,145文字

 成田課長は首を傾げながら読む。

〈 5月31日(火) 巡回……23時10分 23階厨房にて調理員4名、肉を焼いて夜食をとっている。 〉
〈 5月26日(木) 巡回……23時20分 23階厨房。調理員4名夜食。肉を焼いたのか、匂いが残っている。 〉
〈 5月23日(月) 巡回……23時15分 23階厨房。調理員4名が夜食を食べている。何かの貝を焼いている模様。 〉
〈 5月19日(木) 巡回……23時15分 23階厨房。調理員5名、夜食の準備か、肉を焼いている。 〉

 読んでいるうち、成田課長の顔は青ざめてきた。西料理長はさらに青ざめている。
「読むページはまだあるが、似たような内容だ。課長、付箋は何枚貼ってある?」支配人が言う。
 成田課長はおぼつかない手で数える。
「二十二三くらいはあるかと」
「四月と五月の二ヶ月間でこれだけ繰り返されていた。持ってきていないが、六月もある。
 さて、さっきの三浦課長の話と符合させれば何を食べていたか想像出来るだろう」
「米沢牛とは書いていないんですね。あくまで想像で……。他のものでは」西料理長の声は小さい。
「他のものだとして、自分らが持ってきたとでも?」と支配人。
「その……、調理員の名前は書いてあるのですか?」
「書いていない。警備員は皆の名前は知らないでしょう。が、勤務シフト表を見れば判る」
 会議室は重い空気に沈んだ。誰も口をきかない。
「西さん、米沢牛だとすると、仕入れ値はいくらですか?」
「えーっと。部位にもよりますが……」
「仕入れている部位は?」
「ル・シエルではロースとヒレです。……キロ三万から五万円くらい、だと思います」
 西料理長は独り言のように応える。
「一食に何グラム使うの?」
「えと、単品だと150から200グラムくらい……」
 皆はざっと計算したようだ。「嘘だろう、一人一万?」。うぇーーとため息が漏れる。
「この事が推測どおりなら――、当事者は処分しなければなりません。もちろんきちんと調べた上でですが。料理長も免れませんよ。もちろん私の監督責任もあります」支配人の顔は険しい。
「それと、成田課長は職務怠慢。日誌に書かれている異常な事案を放っていたのですから。たとえ、不正がなかったとしてもです」
「申し訳ありません。重大なことは警備員が口頭でも話してくれていたので……」
「口頭で話がないからと、めくら判を押していたのですか。重大なことかどうかの判断を警備員に委ねていたのですか」
 喧嘩や、怪我をしたなど事件性のある場合は、日誌に記入したうえ、管理課長に知らせていたのだ。警備員にしてみれば社員が夜食をとるのは普通のことで、おそらく他の部署と違い、調理をしていたので書いたのだ。それの良否の判断は課長サイドになる。
 成田課長は肩を落としている。
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