第34話 ホテル・セントラルフォレスト

文字数 1,016文字

 議事が進んでいき、長い会議も終わりに近づいた。
 最後に、コンサルタントの池上が言った。
「後程報告書はお送りしますが、感想を一言述べさせてください。問題が幾つか出ましたが、考えようによっては埋もれる前、今の段階で見つけて良かったとも言えます。
 調理員が食材の夜食をとったとして、これは平年の売り上げがあったら、食材率の変化には気づかなかったかも知れません。
 また、震災で売り上げが見込めない中、人件費を削るのはやむを得ない方策ですが、解雇者の線引きが安易すぎたと思います」
 機械的に非正規社員だけを解雇したことだ。
「よく検討すれば正社員にも要らぬ者がいたことでしょう」
 池上は辻村課長に目をやった。聞こえないふりなのか彼女は反応しない。
「また、社員食堂を廃止したことも、良くなかったと私は考えます」
 今までどおり会社が夜食を出してあげていれば、先ほどの事案は起きなかったかもしれないと言う。
 仙台市の経済も数ヶ月から遅くても一年位のうちに元に戻ってくる見込みだ。それまでに陣容などを整える準備をしておくべきだと結んだ。

 長い会議は終了した。それぞれが席を立ち、三々五々歩きだす。中森次長に辻村課長が近づいてきた。
「次長、ビアガーデンの企画、私いい宣伝プランを出すわ。急ぐのよね」
「え、それはどうだろう? 集客に消極的な人がいいプランを出せるとは思わないがね。これは料飲のスタッフで考えてみるよ」
 それとも経理課さんに頼もうかな、と笑って中森次長は歩きだした。

 勤務シフトから当日の遅番が判明した。
『ル・シエル』ではディナータイムが終わる、二十時か二十一時ころには料理長などは退社する。あと閉店の二十三時までは遅番が残る。だいたいは主任と若い調理員だ。
 調査の結果、ホテルの食材を夜食にしていたのは、二人の主任。それと若い調理員が数人。主犯(・・)は主任で、若い調理員はそれに従っていた。理由は社員食堂が廃止になって、夜食が出なくなったことと、社用でランチをとる者もいるので、自分らもいいだろうと思ったとのことだ。
 その主任の一人が木立さんだった。咲江の恋人の。

 処分が決まった。
 二人の主任 懲戒解雇
 若い調理員たち 減給二〇%三ヶ月
 西料理長 減給二〇%六ヶ月
 総料理長 減給一〇%二ヶ月
 管理課長 減給一〇%二ヶ月
 支配人 減給二〇%六ヶ月

 美沙は心を痛めた。この案件を事務処理するのは咲江のいる人事課だ。どんな思いで業務をしただろう。
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