第27.5話  由瑞と樹

文字数 436文字

ズタズタになったシャツを片手で脱ぐと裾を噛み千切る。
それを右手と歯を使って左腕に巻いた。

足音が聞こえた。
振り向くと樹が立っていた。
「ご、御免なさい。私、酷い事を言ってしまって。あの、びっくりしたの。驚いて仕舞って。
御免なさい。御免なさい」
樹はおろおろと謝った。
「助けてくれたのに。御免なさい。御免なさい」
樹は頭を下げて「御免なさい」を繰り返した。

「いい。これを結んでくれないか?」
由瑞は言った。
樹は震える手でそれを結んだ。そして大きく目を見開いて由瑞を見た。
由瑞は傷口を強くシャツで圧迫する。
シャツには血が滲んだ。それを見詰めた。

視線を上げて樹を見る。
樹は涙で潤んだ瞳で由瑞を見ている。
由瑞は視線を池に向けた。


樹は来ていたシャツを脱ぐとそれを由瑞の腕にそっと回した。
「私が抑えていようか?」
「いいから。・・触らないでくれ。君の服は要らない」
由瑞は言った。

樹は目を見開く。そして両手で顔を覆って泣いた。
由瑞はそんな樹を見て、そして池を見た。何かを言おうとして、それをやめた。

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