第40話  龍5

文字数 1,530文字

「小夜子。おい、小夜子。起きろ」
夜刀の声がする。
小夜子は眠い目を擦りながら体を起こす。
融は隣でまだ眠っている。
いつの間にか眠ってしまったらしい。服が粗方乾いていた。


目の前に怜が立っていた。
怜はぐったりとした東藤家を抱えている。怜の手を離れると、理沙は倒れる様に地面に座り込んだ。二人ともずぶ濡れだ。ぽたぽたと怜の前髪から水が落ちる。
「・・・お前ら、一体どういう神経をしているんだ。こんな場所でよくもぐうぐう眠れるものだ」
怜は呆れて言った。
「それも僕が必死でこの女を龍から連れ戻していると言うのに・・・寝てるとか・・有り得ない」
怜の声で融は目が覚めた。
「おお。怜。良かった。無事だった」
融は言った。
「お前、ふざけんな。殴るぞ。融」
怜の怒りをスルーして融は続ける。
「東藤家は・・・おっ、生きているな。良かった。良かった。さて、帰ろうぜ。小夜子。怜、世話になったな。これで一件落着だな」
融は立ち上がる。


「ん・・?」
怜の後ろに龍がいる。静かに水面に顔を半分浮かせてこちらを見ている。と、その顔の横からひょこりと顔を出した者がいた。
真っ白い髪が水に流れる。これまた白い顔。その中の赤い目。・・・・まるで龍の子供だ。
その子が水から上がって、すたすたと融達の前に来た。
融は目を見張った。
まるで理沙の子供版だと思った。
目尻の黒子も一緒。同じ顔。
融は怜を見た。

「知らない。どんな仕組みでこうなったのか。・・・龍は僕を飲み込んだ後に、あの、石も飲み込んだんだ。あの首を。・・・その後、何かが起きて、いろいろとミックスされたんじゃないのか?気が付いたら、僕とこの人は吐き出されていた。
この人がどういう状態かは分からない。もしかしたら廃人になっているかも知れないが、まあ死体よりはマシだろう」

「エキスを取られちゃったってこと?あの影に?」
「んー。多分」
怜も首を傾げる。
「じゃあ、この人はもう『龍憑き』じゃないんだね?」
「って、言うか、人として機能していないかも知れない。色々取られちゃって」

融はふうっと息を吐いた。
「それが彼女の望みだったのだから。いいんじゃないの」
そう言うと座ったままでいる理沙の体を起こして、それを背負った。理沙は力無く融に体を預けている。

白い少女は融に駆け寄ると、その手に触れた。
そして手を握った。ひやりとする冷たい手だった。

三人は少女を見る。
「・・・思っていたのと違う」
融は言った。
「もう少し、大きな子のイメージがあったけれど・・・・小さ過ぎないか?」
小夜子は首を傾げた。
「確かに・・。これは幼女だな」
怜は言った。

少女は融を見上げて何かをしゃべった。
融には何て言っているのか分からなかった。
「・・・・」
少女はまた何かを言う。
融は首を傾げる。そして怜と小夜子を見る。
二人とも首を横に振る。

「聞いたことが無い。・・古代のアイヌ語か?いや、現代のアイヌ語も知らないが」
怜は言った。

少女は融を指差して言った。
「ユポ」
融は自分を指差す。
「ユポ?」
少女は嬉しそうに頷く。
融は暫し考え、怜を指差した。
「ユポ」
少女は怜をじっと見て、そして首を横に振る。
改めて融を指差し「ユポ」と言った。

融はがっくりと項垂れる。
「いい。分かった。よく分かった。小夜子。これ以上いると帰れなくなるかも知れない。おい。帰るぞ。怜、世話になった。夜刀、早いとこ道案内をしてくれ」

「ああ・・。こっちから帰った方が早い。いつもの道だ。ただし、誰かが橋を壊したせいで、跳ばなくてはならないが」
怜は言った。
「また!?」
融はそう言うと怜の顔を見た。
「お前、直して置けよ」
「僕には関係がないから。必要ないし」
怜は返す。
「いいから。早く帰るぞ。帰れなくなると困る」
融の衣服を掴んで離さない少女を見て小夜子は言った。

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