第56話  由瑞 

文字数 535文字

由瑞は連休中にも関わらず、仕事に来ていた。
仕事をしていた方が精神安定上良いと悟ったのだ。

春乃は由瑞を見ていた。
仕事に来たと言いながらも、時折、心ここに在らずという体でぼーと考え込んでいる。
「由瑞。加納さんとお会いするんじゃなかったの?連休後半は。雪乃がそう言っていたわよ。呑気に仕事なんかしている場合じゃないでしょう?」
春乃は言った。

由瑞はやる気のない顔で春乃を見た。
「怪我をしているから会えないって、もう伝えました」
春乃は由瑞の腕を見る。
・・確かに怪我をしているよね。でも、仕事に来てんじゃん・・。会いに行けよ。名古屋へ。
そう思う。

由瑞はため息を付くとだるそうに頬杖を突いた。
「と言うか・・・俺は今それ所じゃ無いんです。心配事があって。・・・・加納さんとの話は無かった事にして欲しいって、もう母にも伝えました」
そう言った。

春乃は驚いた。
「何を言っているの。あんなに雪乃が苦労して・・・。彼女は朱華に似ているんじゃないの?」
由瑞は悩まし気に春乃を見る。

「朱華に似ているけれど、朱華ではない」
由瑞はぽつりと言った。
春乃は呆れた。
「そんなの当たり前でしょう!何を言っているの!この子は!」

由瑞はまたため息をひとつ付く。
彼のその顔をじっと見る。

「駄目だ。こりゃ」
春乃は呟いた。

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