第22話  魔の連休 小夜子と理沙

文字数 1,442文字

小夜子が石段を登って行くと、融と理沙は並んで神社の階段に座っていた。
理沙の他に東藤家の男達が4人。
小夜子を見て、理沙は片手を上げた。同時に融の腕も上がる。
二本の腕は手錠で繋がれていた。

小夜子は呆れた。
「何をやっているんだ。融・・・」
「面目がない・・」融は目を伏せた。

「東藤家。会合は明日の筈だ」
小夜子は言った。
「明日は明日で、ちゃんとウチの兄が来るわよ。で、私は今日、いい餌を見付けたから、食いついてみたの。今からちょっと下見に行きたいわ」
理沙は言った。
「だから、あの鳥居の所にいる『あれ』をどかして頂戴」
理沙は奥の院の入り口を指差した。

「明日の交渉の為にも下見をして置きたいのよ。ウチの兄はすごく短気だから。・・・言う事を聞かないならこのままこの男を連れて帰るわ。・・・私、この人の事をすごく気に入ったの。だから返さない。絶対に返さないわよ」理沙はにやりと笑う。

「銃は?」
小夜子は言う。
「あるわよ」
「卑怯な奴らだ」
小夜子は吐き捨てる様に言う。

暫し考えを巡らす。
融の顔を見てふうとため息を付く。融は身を竦めて小夜子を見る。

「仕方が無い・・・。奥の院へ連れて行く。だが、東藤家、お前だけだ。他の奴らはここから出て行け。明日も銃があるとしたら、私はその短気なお前の兄とは会わない。警察を呼ぶ。会合も何もない。・・・そして、その後、何がお前達の身の上に起きても、それは自分達のせいだと思えばいい」
「疫神をお前の車に乗せてもいい。・・・いや、もっと何か良いものを。ここには掃いて捨てる程いるからな。お前がどこに行こうと関係はない。死ぬまで追い掛ける事も出来る」
小夜子は無表情に言った。

理沙は言った。
「おお、怖い。・・・大丈夫よ。兄は銃は大嫌いだから。未だに『飛び道具は卑怯なり』とか言っている人だから」

理沙は小夜子の後ろに控える大型犬に視線を移す。
「凄い犬ね。こんな大きな犬は見た事が無い・・まるで狼みたい」
そう言ってじっと見る。
伊刀の灰青色の瞳に理沙の姿が映る。

「?」
伊刀は不思議そうに首を傾げる。

理沙は小夜子の顔を見る。
「・・・ねえ。これは本当に犬なの?」
小夜子は口の端を上げて笑う。
「私には犬にしか見えない」


理沙は「ふう・・」息を吐くと言った。
「あなたもここも、ちょっと普通じゃないわね・・て言うか、かなり」
「貴。ちょっと下見に行って来るわ。だからみんなを連れてホテルに戻っていて。今から行くからちょっと遅くなると思うわ」

「今行くのなら帰りは明日になる。奥の院は遠い。そして夜は動くことは出来ない。真っ暗闇だ」
小夜子は言った。
「じゃあ、今夜はどこへ泊るの?」
理沙は尋ねた。
「寺がある」
小夜子は答えた。


「じゃあ、貴。そうやって兄に伝えて置いて。明日の会合までには帰って来るから」
茶髪の男は頷いた。
「さて、行きましょう。案内を宜しくね。赤津さん。手錠は向こうに着いたら外してあげるわ」
理沙は言った。

「理沙。気を付けて」
茶髪の男は言った。
「お嬢。気を付けて」
他の男達が声を掛ける。

「お前らは早く出て行け」
小夜子は言った。
伊刀の口から低い唸り声が聞こえる。
茶髪の男が舌打ちをする。
「うるせえな。分かったよ」
そう言って男達は神社を後にした。


男達の姿が消えると小夜子は言った。
「さあ、行くぞ」
融と小夜子、理沙は奥の院へ向かう。
三人は赤い神橋を渡った。

伊刀はそれからも神社の前に留まった。耳を澄ませる。車が遠ざかる音が届いた。
伊刀は走り出した。
川を飛び越え、柵を一気に乗り越えると小夜子の後を追った。

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