第32話  魔の連休 蘇芳

文字数 779文字

蘇芳が口を開けたまま、史有を見詰めていると、「おい。そろそろ総師範がやって来る」
そう言って、座り込んでいた男達が立ち上がった。
服に付いた土を落とす。

「おい、あんた達、そろそろ総師範が来るから、家に戻ってくれ。話し合いに来る」
蘇芳は忌々し気に返す。
「誰と誰が話し合いだって?」
「東藤家と赤津家が」
「赤津って・・赤津の人間は誰も・・ああ、ここに一人いるけれど・・・。この子じゃ話し合いも何も出来ないわよ。それにそっち側のあの人、理沙って言う人はどこにいるの?あの元凶の東藤家理沙は!」
「お嬢はお宅の二人とそっちへ行ってまだ帰って来ない」
ひとりが川向うを顎でしゃくる。
「その状況を知らないの?お宅の総師範って人は」
「いや、知っているが、もう山形入りをしているから向かうと言っていた。それにお嬢は会合までには帰って来ると言っていたから・・・」
蘇芳は露骨に嫌そうな顔をした。
「それ所じゃないんだけれどなあ・・・。由瑞を探しに行かなくちゃならないのに・・・ちっ。本当に融通が利かないわね」
男は呆れた顔をした。
「お前・・・総師範はとんでもなく怖い人だから、いいか?絶対にそんな態度をとるなよ。ぶっ殺されるぞ」
蘇芳は返した。
「ふん。盗人猛々しいとはこの事よ。人の家に忍び込んで水晶玉を盗んだくせに・・・。迷惑この上ない」
憎らしそうに男を睨み付ける。
「な、何だよ・・」
男はビビる。
蘇芳は男を睨んだまま爪を噛む。
「嫌な感じね。その男。傲慢な感じで・・・でも、まあ、来るんじゃ仕方が無い。じゃあ、帰りましょう。史有。里村さん。話だけ聞いて置きましょう」

蘇芳はさっさと石段を下りる。史有と里村はそれに続く。
その後から、男達は足を引きずりながら降りて行く。


「阿子ちゃん、阿子ちゃん。いない。いない・・・・ばあ!室生の蘇芳ちゃんだよ~」
蘇芳の声とキャッキャと笑う阿子の声が聞こえて来た。

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