第11話  樹 3

文字数 1,145文字

融に電話を入れた。
コール音は鳴るが、彼は出ない。
これから山に入るから圏外になると3時頃にラインがあった。
それきりだ。
まだ神社にいるのだろうか?
夜なのに帰ってこないのだろうか?何をしているのだろう。街灯も無いからあの辺りは夜になると真っ暗なはずだ。
樹は心配になる。

小夜子の家の家電に掛けて見た。
史有が出た。
「史有君。今晩は。史有君。融君はどこにいるのかしら?電話に出ないのだけれど・・」
「今晩は。樹さん。えっと、融さんは裏山に行っていて、まだ帰って来ない。サヨちゃんと一緒だから。心配はしていない」
樹はほっとする。
「連絡を取りたいのだけれど、何時ごろに帰ってきますか?」
「いや、ちょっとアクシデントが起きて・・・。融さん、暫く裏山から帰って来ることが出来ないと思う。スマホは俺が預かっている」
「暫くって?」
「うーん。・・2日位かな」
「えっ?」
樹は驚く。
「家に帰って来ないで、裏山にいるの?」
「そう」
・・・

「2日も帰って来ないの?」
「うん」
・・・

「登山って事?そんな事は言っていなかったけれど。準備もしていなかったよ。・・・裏山に一体何があるの?」
「奥の院の、またその奥の院みたいなモノが」
史有は言った。
「奥の院のそのまた奥の院?・・・それって、あの奥の院から続いているの?」
「そうそう。そうなんだ。そこからずっと奥の方へ」
・・・

だって、あの場所には池しかないし、ぐるりと岩壁が取り巻いていた。どこかに道があるのだろうか?

「重要なお客さんの案内だって言っていたけれど・・」
「重要と言うか、変な女と言うか、クレーマーと言うか、ヤクザな女と言うか・・・。融さん、来なくてもいいってサヨちゃんが言って置いたのだけれどね」
史有は言った。
「来なくてもいいって言われていたの?」
樹は更に驚く。
「そう。・・・何?知らないの?」

「知らなかった。・・・史有君。奥の院にまた奥の院があるなんて事も、私、知らなかったよ。初めて聞いた。史有君、だけど、幾ら遠いって言っても、どうして二日も掛かるの?だって、奥の院って家の裏じゃん。御免。よく話が見えないんだけれど・・・・」
樹は訳が分からなかった。

史有は黙る。

「史有君?」
「樹さん。奥の院の事を融さんから・・」
「えっ?何?」
「いや、いい。何でもない」

史有は困ったことになったと思う。


「あっ。御免。阿子が泣いている。起きちゃった。じゃあ、また。心配しなくても大丈夫。兄貴もいるし、里村さんもいる。明日はすお姉も来る」
「えっ?蘇芳さんも来るの?」
「そう。融さんには樹さんの電話の事、伝えて置くよ。じゃあね。」
電話は切れた。
樹は電話を持ったまま呆然とした。



史有はほっと息を吐いた。
阿子はすやすやと眠っている。

「どうしたって無理があんだろ。・・俺は知らねえからな」
史有は呟いた。
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