第57話  5月4日 土

文字数 661文字

電話が鳴った。
由瑞は道路脇に車を停めた。
急いで電話に出る。
「佐伯です」
「お早うございます。赤津です」
電話の向こうで融の声がした。

「樹の意識が戻ったよ」
融は嬉しそうに言った。
「本当ですか?!」
由瑞は思わず大きな声で言った。
樹が入院してから一週間が過ぎていた。

「ああ。朝方、夜刀が帰って来て・・・眠っていたらしいよ。地蔵様の祠の中で。・・・地蔵様が呼んでくれたのだろうって怜は言っていたって。・・ウタが見つけてくれた。ウタは優秀だな」
融はそう言った。

「もう目覚めるだろうと思って、慌てて病院に来たんだ。さっき目覚めた所だ」
融は言った。

「樹が君と話をしたいって」
そう言って樹と替わってくれた。
「由瑞さん?」
樹の声が聞こえた。由瑞は目を閉じた。胸が一杯になった。
思わず涙ぐむ。
「良かった。無事に戻って来てくれて・・・」
そう言うのがやっとだった。

「有難う。あなたのお陰です。あなたも無事に戻れて本当に良かった。それだけが心配だったの・・・由瑞さん。本当にお世話になりました。退院したらそちらにお伺いしてちゃんとお礼を言うから。だからまたその時に」
樹は言った。
「うん。楽しみにしているよ。お大事にしてください」
「有難う。じゃあ、またね」
「また。本当に良かったよ」
そうして電話は切れた。


樹と長くあの場所で過ごしたと思ったが、こちらの時間では10時間程度。
それから樹はたった一人であの場所に一週間もいたのだ。あんな場所に。
だが、それで済んで本当に良かったと思った。
ああ・・意識が戻って本当に良かった。
由瑞はシートに座ったまま動けなかった。
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