第58話  融  5月4日

文字数 793文字

樹が由瑞との会話を終えて、融は腰を上げた。
「ちょっと、みんなに電話をして来る。君の意識が戻ったって。学校にも入れて置くよ。実家のお義父さんにも。お義父さんとお義母さん、来てくれたんだよ」

「あら?お義母さんも来たの?」
「そりゃあ、意識不明の重体だから。来ない訳には行かないでしょう。
後で君からも電話を入れて置いてよ。・・・俺、めちゃくちゃ怒られたから。お義父さんに。怒鳴られて。何やっているんだって」
樹は済まなそうな顔をした。
「ああ・・。御免なさい。それで、父には何て言ったの?」

「一人で山菜取りに山に入って遭難したって。俺が買い物に行っている間に、勝手に入ったって言って置いたから」
融は答えた。
樹は苦笑した。

「分かった。有難う。学校へは何て?」
「それも同じ。一人で山菜採りに行って遭難したって。それで低体温症になって、意識不明の重体ですって。そう言った。教頭先生が驚いていた。そりゃあそうだよな。みんな驚くよ。」
「きっと阿保な奴だと思っただろうな・・・。うん。有難う。融君」
樹は言った。

融は電話を持って部屋を出て行った。
関係者に樹が目覚めた事を伝えて、また病室に戻って来た。


「さっきお医者様がいらっしゃって。この後いくつか検査をして2,3日様子を見て、それで大丈夫なら退院できますって。また、融君がいる時に説明に来ますって」と言った。
「そうか。分かった」
そう言って、融は樹の枕元に椅子を寄せた。

「融君。もう疲れたから少し眠るよ。・・それで次に目が覚めたら融君に話があるんだ」
融は頷く。
「封筒の事だね?」
「ああ。そう。それも。それに他にも・・」
樹はそう言うと目を閉じた。
「融君。眠ってしまうのが怖いのだけれど。・・・でも、もう平気だよね?もう異界には行かないよね?」
樹は目を閉じたまま言った。
「大丈夫。君が目を覚ますまでここにいるから。ずっと君の傍にいるよ」
融は樹の手を握ってそう言った。
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