第18話 魔の連休 融
文字数 1,774文字
遡る事一日前。
明日から連休。
融は朝早く神社に向かった。昨日の夜遅くに珠衣に到着していた。
いい天気だ。
融は竹箒を持つと、神社の庭を掃除し始めた。
小夜子は何なら来なくてもいいと言っていたが、そんな訳には行かないだろう。
俺の実家のトラブルなのだから。
高々兄に似ている位で、だから?と言いたい。
佐伯だってわざわざ大阪から来るんだし。
まあ、佐伯のせいだからそれは仕方がないな。
本当に迷惑な男だ。お前は誰とも関わるなと言いたい。
融は「疫病神の様な奴だ」などと呟く。
『奥の院』を見せて欲しい。
「東藤家はそう言った」
小夜子は言った。
「見てどうすんの?」
「龍がいるんじゃないかと思っている」
「馬鹿じゃないの?龍なんて現実世界には存在しない」
「確認したいそうだ」
「確認してどうすんの?」
「さあ・・。会いたいのだろうな。きっと」
「会うだけ?・・・じゃあ、ここに居ると分かったら、これからもちょこちょこ、ここへ来るって事?・・・小夜子。もしも、その女が本当に『影』の生まれ変わりだとしたら、『影』が復活する事になるんじゃないのか?それってヤバいんじゃないの?」
・・・
「その『影』を異界に閉じ込めて置くことが出来るの?」
・・・
小夜子も沈考する。
「だが、龍を探して千年以上もこの世とあの世を彷徨った。探し続けて。その娘が来るのなら、私は会わせない訳には行かないと思う。彼女はもう探し当てたのだ。それを遮ろうとしても無駄だと思う。それは世の中の理 に反すると思うよ。何故なら龍も彼女を求めているのだから」
小夜子は言った。
「そもそも龍が存在する事自体、『理』に反している」
融は呟く。
「『影』は『荒魂』として封じられている。・・・時が過ぎた。長い時が。東藤家は『影』の『和魂』かも知れない。それは「そうあって欲しい」という私の希望的観測だが・・・。『影』は自分自身を求めていた。いや、それは龍が、かも知れないが・・・・いずれにしろそれは止める事は出来ない。それもまた大きな流れの一つなのだろうから」
「そもそも『影』は鬼では無かった。人々により鬼にされてしまった神だ。殺され、一族を根絶やしにされた恨みが『荒魂』となってしまったのだ。・・・龍と東藤家が出会う事で何が起きるか分からないが、それはもう致し方無いと言う事だ」
小夜子は言った。
「『和魂』ねえ。確かに希望的観測だな。だが、その『荒魂』を慰め、鎮めるために赤津はここにいるのだから。その結果が災厄を呼ばない様にするしかない。それが仕事なのだから。
怜も向こう側にいるのだし。これはもう3人で何とかするしかないな。薄羽様がいないのが痛いが、佐伯家も加勢してくれるのだから」
融は言った。
融は箒を動かしながら小夜子との会話を思い出す。
何とか穏便に済ませたい。
そう思った。
と、誰かが石段を上がって来るのが見えた。
すらりとした女性が一人。フードを被っている。融は女性を見た。
女性ははたと立ち止まって、融を見詰めた。
融はすぐに分かった。
目元の黒子。「東藤家理沙」だ。
軽く会釈をすると、そのまま掃除を続けた。
「確か、来るのは明日のはず・・・」
他に人はいない。という事は一人で敵情視察か?
理沙は参拝を終えると融の近くに寄って来た。
「お早うございます」
「お早うございます。お参り有難う御座います」
融は理沙を見る。
とても綺麗な女だと思った。
だが、目力が凄い。ちょっと怖い位だ。
理沙は固まった様に融を見詰めている。
「?」
「何か?」
融は尋ねた。
「ああ・・御免なさい。私の知っている人にとても似ていたから・・」
理沙は目を潤ませて融を見詰める。
・・・意味が分からない。
融は視線を逸らす。
「この神社の方ですか?」
理沙は目元を拭って言った。
融は頷いた。
「赤津です」
融は言った。
「東藤家理沙です」
女は名乗った。
「小夜子に聞いています。奥の院に行きたいらしいですね」
理沙は頷いた。
「是非、そこに行ってみたいのです。だから、あの場所にいる『あれ』を除けて欲しいのです」
理沙は奥の院の鳥居を指差す。
「・・・あれが見えるのですか?」
融は尋ねた。
「何か分からないけれど・・・すごく禍々しいモノがあの場所にいます。それは分かります」
「ふうん。・・・あなたはいい目を持っていますね」
理沙はじっと融を見た。
「当然です。・・・だって私の中には龍がいるのだから」
囁くように理沙は言った。
明日から連休。
融は朝早く神社に向かった。昨日の夜遅くに珠衣に到着していた。
いい天気だ。
融は竹箒を持つと、神社の庭を掃除し始めた。
小夜子は何なら来なくてもいいと言っていたが、そんな訳には行かないだろう。
俺の実家のトラブルなのだから。
高々兄に似ている位で、だから?と言いたい。
佐伯だってわざわざ大阪から来るんだし。
まあ、佐伯のせいだからそれは仕方がないな。
本当に迷惑な男だ。お前は誰とも関わるなと言いたい。
融は「疫病神の様な奴だ」などと呟く。
『奥の院』を見せて欲しい。
「東藤家はそう言った」
小夜子は言った。
「見てどうすんの?」
「龍がいるんじゃないかと思っている」
「馬鹿じゃないの?龍なんて現実世界には存在しない」
「確認したいそうだ」
「確認してどうすんの?」
「さあ・・。会いたいのだろうな。きっと」
「会うだけ?・・・じゃあ、ここに居ると分かったら、これからもちょこちょこ、ここへ来るって事?・・・小夜子。もしも、その女が本当に『影』の生まれ変わりだとしたら、『影』が復活する事になるんじゃないのか?それってヤバいんじゃないの?」
・・・
「その『影』を異界に閉じ込めて置くことが出来るの?」
・・・
小夜子も沈考する。
「だが、龍を探して千年以上もこの世とあの世を彷徨った。探し続けて。その娘が来るのなら、私は会わせない訳には行かないと思う。彼女はもう探し当てたのだ。それを遮ろうとしても無駄だと思う。それは世の中の
小夜子は言った。
「そもそも龍が存在する事自体、『理』に反している」
融は呟く。
「『影』は『荒魂』として封じられている。・・・時が過ぎた。長い時が。東藤家は『影』の『和魂』かも知れない。それは「そうあって欲しい」という私の希望的観測だが・・・。『影』は自分自身を求めていた。いや、それは龍が、かも知れないが・・・・いずれにしろそれは止める事は出来ない。それもまた大きな流れの一つなのだろうから」
「そもそも『影』は鬼では無かった。人々により鬼にされてしまった神だ。殺され、一族を根絶やしにされた恨みが『荒魂』となってしまったのだ。・・・龍と東藤家が出会う事で何が起きるか分からないが、それはもう致し方無いと言う事だ」
小夜子は言った。
「『和魂』ねえ。確かに希望的観測だな。だが、その『荒魂』を慰め、鎮めるために赤津はここにいるのだから。その結果が災厄を呼ばない様にするしかない。それが仕事なのだから。
怜も向こう側にいるのだし。これはもう3人で何とかするしかないな。薄羽様がいないのが痛いが、佐伯家も加勢してくれるのだから」
融は言った。
融は箒を動かしながら小夜子との会話を思い出す。
何とか穏便に済ませたい。
そう思った。
と、誰かが石段を上がって来るのが見えた。
すらりとした女性が一人。フードを被っている。融は女性を見た。
女性ははたと立ち止まって、融を見詰めた。
融はすぐに分かった。
目元の黒子。「東藤家理沙」だ。
軽く会釈をすると、そのまま掃除を続けた。
「確か、来るのは明日のはず・・・」
他に人はいない。という事は一人で敵情視察か?
理沙は参拝を終えると融の近くに寄って来た。
「お早うございます」
「お早うございます。お参り有難う御座います」
融は理沙を見る。
とても綺麗な女だと思った。
だが、目力が凄い。ちょっと怖い位だ。
理沙は固まった様に融を見詰めている。
「?」
「何か?」
融は尋ねた。
「ああ・・御免なさい。私の知っている人にとても似ていたから・・」
理沙は目を潤ませて融を見詰める。
・・・意味が分からない。
融は視線を逸らす。
「この神社の方ですか?」
理沙は目元を拭って言った。
融は頷いた。
「赤津です」
融は言った。
「東藤家理沙です」
女は名乗った。
「小夜子に聞いています。奥の院に行きたいらしいですね」
理沙は頷いた。
「是非、そこに行ってみたいのです。だから、あの場所にいる『あれ』を除けて欲しいのです」
理沙は奥の院の鳥居を指差す。
「・・・あれが見えるのですか?」
融は尋ねた。
「何か分からないけれど・・・すごく禍々しいモノがあの場所にいます。それは分かります」
「ふうん。・・・あなたはいい目を持っていますね」
理沙はじっと融を見た。
「当然です。・・・だって私の中には龍がいるのだから」
囁くように理沙は言った。