第5話  4月 融と小夜子

文字数 1,281文字

小夜子から電話が入った。
「客が来た」
融は驚いた。
「えらく早いな」
「蘇芳さんは水晶玉占いの達人じゃないかと言っていた。で、向こう側のアクション待ちだから、取り敢えず奥の院の結界だけをしっかりしておこうという事になって・・」
小夜子は続ける。
融はふんふんと聞いている。


「一か所だけ心配な所がある。夕方、一体、庭で見掛けた。その前は道で見付けた。裏山から降りて来たらしい。すぐに消したが。・・・どうもそこだけ、張っても、すぐに緩んでしまう」
「どこ?」
「あの、岩山と森の境目。丁度社の鬼門に当たる」
「ああ・・。そこか。あれは何かの通り道になっているみたいだな。俺もちょっと気にはなっていたんだ。龍が目覚めて、お前も目覚めた。怜は龍といる。あの場所も変わって来たのかな。アクティブになって来たのかも知れない」

「異界がパワーを持ち始めたという事だろうか?」
「もっと強力なモノで塞がないと駄目なんじゃないの?裏鬼門からも強力な見張りを付けて」
「そうだなあ。それはちょっと一人では大変だな・・・・。融が今度こちらへ来た時にでもやるか」
「史有は?」
「史有には無理だ。伯母様がいたらサクサクとやってくれたのだろうけれど・・・。一応、結界を張り直したが・・・。
流れがあるとしたら、流れを調整する方向にした方が無理はない。止めるよりも。でも、それは流れのルートを良く検討しなければならないな」
融は暫く考えた。
「じゃあ、今週末に一度行くよ。その女が来る前に」
「だったら、樹さんも来るのだろう?丁度いいから、奥の院をちゃんと見せておけばいい」
小夜子は言った。
「もう、赤津の一員なのだから」

融はとんでもないと返した。
「樹にはお婆と神社の掃除でもしてもらうよ。俺は、奥の院に樹を関わらせるのは嫌なんだ。
絶対に駄目だ。俺は樹が大事なんだ。あの場所は危険だ。奥の院の事は俺がやるから、彼女には黙っていてくれ」

「そんな事を言ったら、いつまでたっても樹さんは赤津の一員になれない」
「樹は俺の嫁だから。赤津の嫁じゃないから。関係ない。俺は樹に余計な心配を掛けたくないんだよ」
融は言った。
「結婚したらそんなの無理に決まっている」
「それは分かっている。でも、子供でも生まれてもっと落ち着いたら、そうしたら徐々に・・と言う流れを俺は考えている」
小夜子は「ふう・・」と電話の向こうでため息を付いた。


「奥の院の鳥居の前に疫神を置いた。勝手に入って来られると困るからな。
それと、別の話だが、融、蘇芳さんが言っていた。もしかしたら、東藤家は兄を探しているかも知れないと。で、その兄は融か怜に似ているはずだと。水晶玉にイメージが過ったらしい。ほんの一瞬。だから、何なら当日、融は来なくてもいい。厄介な事になりそうだから」

融は驚いた。そして尋ねた。
「何で蘇芳さんはそんな事を知っているの?」
小夜子は電話の向こう側で「ははは」と笑った。
「怜が蘇芳さんに『赤津家の歴史』という話をしたらしい。まあ作り話だからな。本当の所どうだか分からない。・・・怜が蘇芳さんの夢の中に出て来たらしいよ」

「夢の話かよ」
融はついて行けないと思った。
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