第55話  樹 異界 3

文字数 1,408文字

土手道を走ったり歩いたりして、もうどれ位時間が過ぎたのか、それも分からなかった。
随分長い時間が経った様にも思えた。
けれど由瑞の「1クール、15分」と言う言葉を胸に「大丈夫、大丈夫」と自分を励ました。

いつの間にか、ゆずの「栄光の架け橋」を口ずさんで歩いていた。
繰り返し口ずさんだ。

道のずっと先に沢山の人が並んでいるのが見えた。
「えっ?ナニコレ?」
樹は驚いた。
目を擦って、まじまじと見てみる。
やっぱ、行列だ・・。
みんな、こんな場所でどこへ行こうとしているのか・・?
てか、この人達どこから湧いて来たの?
食べログの★四つとかの店で見掛ける行列と何ら変わりがない。
ざわざわと人々は笑ったり話したりしながら並んでいた。
樹は行列を目指して歩く。

「?」
樹は首を捻る。

歩いても、歩いても行列に辿り着くことは無かった。自分が歩く分、行列も離れて行く様に思えた。
まるで蜃気楼の様に。
樹は蜃気楼を追い掛けていた。

橋があの場所にあるのだろうか?
橋を渡るためにみんな並んでいるの?
あんなに沢山?

全く距離が縮まらない事にイラつく。
クソムカつく。
意地でも行列に並んでやる。
そう思った。

延々と追い掛けた先で・・
目の前の川が突然終わっていた。
樹は茫然と川を見た。

いや、終わった訳ではない。川は二つに分かれて、太い一方は向こう側を流れていた。
細い一方は山の中に吸い込まれている。山の下の大きな洞窟的な場所、祠だ。
薄暗いその奥に小石がどっさりと敷き詰められ、その辺りで川は消えていた。
地下に還ったのだ。伏流水に。


洞窟の奥に行くに連れて石の量は増えて地面が高くなっていた。
あちらこちらに平べったい石が積まれていた。小さな山が沢山出来ていた。
賽の河原の様に。
誰がこんな場所で小石を積んだのだろうと思った。
「ホント、日本人って石を積むのが好きだよな・・・」
そんな事を言いながら、樹は川の消えた祠を進んで行く。

ずっと奥にはびっしりと石仏が置かれていた。地蔵様や観音様。
それが暗い祠の中で静かに立っていた。
樹は怖くなった。
慌てて祠から離れた。

目を上げると行列は消えていた。
樹はさっきの行列はこの地蔵様達だったのかも知れないと思った。


樹は崖を見上げた。崖の上に何か、建物の屋根が見えた。
「神社だ」
樹はそう思った。
あれはもしかしたら「遠千根宮」ではないのか?
樹は大喜びをする。
そして崖を見上げる。
頑張れば何とか登れるのでは?と自分に言ってみた。


・・・どう考えても無理でしょう・・・。あんな垂直な崖。
こんな事ならボルダリングをやって置くべきだった。
樹は深く後悔する。

だが、それにはまず川を渡らなければならない。
川は少し細くなった分、深く、流れが速くなった気がする。
樹は川と崖と神社を何度も見返す。
そこから動くことが出来なくなってしまった。

樹は祠を振り返る。
祠の中は怖いけれど、あの入り口なら。
のろのろと立ち上がる。

祠の入り口に座って岩壁を見ていた。
この先に行って橋を探すか。それとも川を渡ってあの壁を上るか・・。
考えている内に眠くなった。
ずっと歩き詰めだったから。


眠い。眠過ぎる。
樹はごろりと横になる。
駄目だ。眠ってしまったら帰れない。帰れなくなる。
そう思うが、体が動かなかった。
心地良い眠りが落ちて来る。こんな小石だらけの所なのに・・。


融の笑顔を思い出した。涙が流れた。涙が流れて止まらなかった。
「御免ね。融君。御免ね」
樹は呟いた。

樹は暗い祠の入り口で深い眠りに就いた。
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