第12話  樹 4

文字数 662文字

由瑞、蘇芳、小夜子と史有。そして融。

何かが起きた。
それは鈍い私でも分かる。
融が言っていた事と違う何かが。
アクシデントって何?
ヤクザな女って?
奥の院にまた奥の院がある?
知らない。そんなの知らない。
だって、小夜子さんとウタを見に行ったのは家の裏だった。小夜子さんだってそんな事を言っていなかった。

秘密なの?
じゃあ、その秘密を私だけが知らされていなかったの?
来なくてもいいって言われていたのに、行ったの?


そしてまたあのメンバー・・・。
樹は「はああ・・」と肩を落とした。
信じられない・・・。

融と結婚して自分は赤津の一員となった積りでいた。
でも、違っていた。
現実は違っていた。それを今初めて認識した。

樹は2年前の室生での連休を思い出す。あの時もそうだった。誰も彼もが向こう側にいて、私の傍には誰もいなかった。今度も同じ。ぽつんと一人で彼を待っている。
それも妻なのに。・・信じられない。
夫は向こう側にいるのだ。妻である私独りをこちらに置き去りにして。


今回蘇芳は赤ちゃんを置いて来るのだろうか?だって、連れて来たら動けない。連れて来るにしても、置いて来るにしても、大変な事だ。
わざわざ大阪から二人を呼ぶ程の事なのだ。それに里村まで来ると言っていた。

樹は電話を持ったまま「ふっ」と息を吐くと溢れる涙を拭った。
そんな、赤津の一大事なのに私だけがちゃんと知らされていない・・・。どうして?どうして教えてくれなかったの?
何で?
頭の中で何度も呟く。

あの時と何も状況は変わっていない。その事実に初めて気が付いた。
樹は椅子に座り込んだまま動けなかった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み