第45話  異界 樹と由瑞 11

文字数 859文字

「融君達はどこにいるのかしら?」
樹は言った。
「さあ・・?ここのどこかにいるかも知れないし、また違う場所にいるかも知れない。それとももう用を済ませて向こう側へ帰っただろうか?・・・彼は大丈夫だ。なんせ小夜子さんが一緒なのだから。彼女はここの管理者なのだから。凄い霊力を持っているらしいよ」
由瑞は言った。
「そんな凄い人だったのね。小夜子さんって。知らなかった・・・」
樹は言った。


「女性が来ると言っていたけれど・・」
「ああ・・。龍に会いに・・」
「龍?」
「そう」
「龍なんかいるの?」
「いるらしいよ。ここに。・・・話せば長くなるから、またそれは帰ってから赤津に聞けばいい。赤津の方が良く知っているから。俺よりも。・・・・少し眠ろう。話し疲れたから・・」
そう言って由瑞は樹を引き寄せると目を閉じた。
樹も目を閉じる。
「あなたの体が温かくて・・・気持ちがいい」
そう呟いた。
「寒いせいか、ここにいると眠くなる・・・凄く眠い・・」


無言の時が流れた。



「樹さん」
「・・・うん」

「もう眠った?」
「うん」

暫し無言。



「本当は・・・俺は新しい彼女と新しい道なんて歩きたくないんだ。結婚もしたくない。出来るはずがない。君が好きなんだ。君と一緒にいたいんだ。・・・・・だから、もしも君がこれから先、俺と一緒にいたいと思うなら、俺は赤津に頼み込む。君を譲ってくれって。土下座してもいいし、何発か殴られてやってもいい・・・」
由瑞は言った。

「俺と一緒にいたい?」
「・・・うん」
「本当に?」
「・・うん」
「良かった」
「・・うん」
「約束だ」
「・・・・」
由瑞は樹の額に唇を付けた。


樹はすうすうと眠っている。その寝顔を眺め、果たして樹はちゃんと自分の告白を聞いていたのだろうかと思った。
でも、眠りに就いた彼女を起こしたくは無かった。
今度、目覚めたらちゃんと、目を見て言おうと思った。
今のはリハーサルだと思えばいい。
自分の腕の中で安心して眠る樹を見て由瑞は幸せだった。
こんな場所なのに。
心は落ち着いて穏やかに満たされていた。ようやく自分の心と和解できたのだと由瑞は思った。

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