第39話  龍 4

文字数 1,564文字

ゆらゆらと揺れる透明な水。
水はこれ以上ない程に澄んでいる。
その水の上から覗き込む。

息を飲んで顛末を見守っていた融と小夜子は思わずのぞけった。
「ええー!!」
「怜!」
同時に叫んだ。

龍は何事も無かった様にするすると底に潜って行った。白くて長い体が優雅にゆらゆらと泳ぐ。

二人はそれを眺めて、そして顔を見合わせた。
無言で岩場を離れた。
首までの水に浸かる。
「小夜子。水が増えている」
融は言う。
「どういう仕組みだか、私は知らん」
小夜子はもうどうでもいいと言う感じで返す。
二人は泳いで岸に戻った。
岸に重い体を持ち上げると、二人は座った。
「・・寒いな。枝を集めてまた焚火をするか」
融はそう言うと着ていた服を脱いで絞る。
序に小夜子のトレーナーも絞る。
「下は、何?ラッシュガードかよ。準備が良いな」
「当然だ」
小夜子は答える。
「おい。伊刀、夜刀。小枝を集めて来い」

融は地面に溝を掘ると、そこに集めた枯れ草や小枝を置いた。
防水バックから綿とライターを出して火を付ける。
「ああ。暖かい。・・・しかし、服が乾くのに、時間が掛かるよな・・・」
「融。もう少しこっちに寄って。伊刀、ここへ来て。あっ、夜刀も来て」
皆でぴったりとくっ付いて座る。
団子状態。


「東藤家は行方不明という事にして置こう」
融は言った。
「しかし、溺れたにしろ、何にしろ、体が無いと・・・死体だけでも。警察が厄介だ」
小夜子は返す。
「俺と小夜子で殺してどこかに埋めたと思われる。・・それは困る」
ふう・・。二人は大きな息を吐く。

「何で、あの娘はここへ来て、突然、兄を裏切ろうとしたのだ?」
小夜子は言った。
「兄が嫌いだと言っていた」
「そう言う問題か?・・・さっき、恋人がどうのと言っていた声が聞こえたが・・」
「彼女の恋人に俺が似ているらしい。もしかするとその恋人は亡くなったんじゃないかな」
融は理沙の言葉を思い出す。
「恋人?『影』の兄では無くて?」

融はじっと小夜子を見る。
「・・・・知らねえよ。そんなの。俺が知るかよ!知る訳無いだろう!」
融は逆切れをする。そして立ち上がる。

「帰ろうぜ。小夜子。いい加減に帰りたい。みんな待っている。・・・大体、ここへ来てどの位時間が経ったの?」
「知らない。私だって知る訳が無い!」
小夜子も切れ気味に返す。

「まあ・・前回の事を参考にすると、一日位かな?それとも半日か?」
「知らないと言っている!」
小夜子は怒りながら返す。

「怜はどうする?あの娘の体を何とかしろと言ったから、怜は龍に飲まれてしまったんだぞ?せめて怜が戻るまではここにいるべきだ」
小夜子は正論を言う。
そんな小夜子を融は情けない目で見る。
そしてまた座り込む。
「俺、もう帰って樹に会いたい。・・何日も樹に会っていない気がする。樹と暖かい布団にくるまりたい」
「厄介な事になるから来なくていいって言ったのに。来たお前が悪い。」
小夜子は素っ気無い。
・・・

「来ない訳には行かないだろう?」
融は返す。
小夜子は融の顔を見る。
「ああ・・まあ、そうだな。正直な所、来てもらって心強い。やっぱり史有ではまだまだ不安だから・・・伯母様がいてくれたら良かったのに・・・」
小夜子は膝に顔を埋めてそう言った。
「本当にな」
融は頷く。

「その内、阿子が強力な助っ人になるよ」
融は小夜子の肩を叩く。
「遠い先の話だな」
小夜子は返した。


融はごろりと寝転がる。
「俺、ちょっと寝るから。伊刀と夜刀がいるから平気だよな?・・・・疲れた。怜が戻って来たら教えて」
そう言って目を瞑ってしまった。
「寝たら低体温になって死んでしまうぞ」
「大丈夫。火があるから。・・・おい、夜刀。火を絶やすなよ」
融は言った。

小夜子は池を眺める。
ふと目を上げると、青く暗い空に月が浮かんでいた。
月は青白く、古い骨の様にくすんだ色でぼんやり浮かぶ。
小夜子はここに夜は有るのかしらと思った。
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