第46話  融 奥の院

文字数 513文字

融は奥の院に戻って来た。
「怜!」
「怜―!!」
何度も怜の名前を呼ぶ。
「樹―!!」
がっくりと池の端に崩れ落ちた。呆然とそこに座る。


小夜子と蘇芳が追いかけて来た。
「融・・・」
融の肩に手を置く。
「小夜子。何とかしてくれ。お願いだ」
融は小夜子に言った。
両手で顔を覆う。
「何とかして・・・お願いだ」

あんな場合じゃなかった。あんな東藤家の話を聞いている場合じゃ・・・。
樹は異界に紛れ込んでしまったと言うのに、俺は何をやって・・。

「融さん。由瑞がいるから大丈夫。きっと大丈夫。・・・由瑞は凄く強いし頭もいいし根性もある。きっと大丈夫だよ」
蘇芳は言った。
「由瑞は必ず帰って来る。絶対に帰って来る。・・・でも、万が一、由瑞に何かあったら・・・私、あなたと樹さんを一生許さない」
蘇芳はそう言って融を見詰めた。

「大丈夫だ。蘇芳さん。夜刀が行っている。それに怜がいる。怜がきっと助けてくれる。
それに・・そうだ。ウタを呼ぶ。ウタなら樹さんの匂いを覚えている。ウタなら自由に異界を行き来できる」
そう言って小夜子は水際に走った。

夕闇が迫って来る。
日の名残りを一筋残して全ては濃い青に沈み込んで行った。ぽつんと肩を落とした3つの影はいつまでもそこに佇んでいた。

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